10月7日 晴れ

主にHANNIBAL。

【ハンニバル】S2E2:Sakizuke(先付)

あらすじ

サイロの中で、円形に並べられた人間の身体の集合に加えられて目覚めた青年。なんとか縫い付けられた身体を引き剥がそうともがき、皮膚を破いてサイロから逃げ出す。そこへ戻ってきた犯人と遭遇し、畑の中へと身を隠したが、崖っぷちに追い詰められて河へと身を投げた。全身を強打し、死亡した彼の遺体は河の下へと流されていく…。

 

<ウィルと博士、アラーナ>

「自信が持てないのね。自分の一部を見失ってしまったのよ」面会にきたアラーナとレクター博士に「もう自分のことがわからない」と口走るウィル。「とても怖い」と震えるウィルに、「記憶を取り戻せず妄想にとらわれている」と断じる博士。

「真実を明らかにしましょう」前に進むために、と言い聞かせるアラーナ。「あなたに裏切られた気がする。その感覚だけがリアルなんだ」とウィルは続ける。「僕はあなたを信頼してた。信頼したかった」とレクター博士に言い募り、「信頼していい」と答えられても、自分はまだ混乱しているのだと嘆く。

「ウィル、手伝わせてくれ。力になりたい」と囁く博士に、「お願いだ、助けて欲しい」とウィルは泣き出すのだった。すべては自らの芝居によって、レクター博士を罠にはめるために。

 

<博士の家を訪ねるベデリア先生>

「あなたの担当医を外れる」と言いに来るベデリア先生。「自分の能力に限界を感じたからよ。あなたの力にはなれない」患者と精神科医という関係を終わらせたいのだと。かつて自らの患者に襲われるという悲惨な経験をした彼女にとって、その後も医師として信頼してくれたレクター博士には感謝している。

「だけどウィル・グレアムに起きた一連の出来事を考えたら、あなたの行動に疑問を抱くようになったの」特に、自分が襲われた件にまつわる行動について。

「私の罪とは何かな」「はっきりとはわからないわ。でも結論を出さざるを得なかった。あなたがかぶる人の皮の隙間から見えるものだけを頼りに…」あなたという人は、危険だ。それがベデリアの結論だった。「二度と私の家に来ないで」そう告げて、麗しきベデリアは去ろうとする。そこへ博士は「ウィルのセラピーを再開するんだ。助けを求められた」と打ち明ける。「似た者同士なんでしょうね」彼女は慧眼である。

 

<進む捜査、ウィルの影>

逃げようとして墜死した青年の遺体の司法解剖が行われる。他の遺体と同じく大量のヘロインを摂取しており、自宅で一人でいるときに失踪した。解剖に立ち会ったレクター博士は「彼の何かが気に入らず、縫い合わせたところから引き剥がして捨てたんだ」と推理する。「クラクリュールに手がかりが残っているかもしれない」それはフランス語で、ひび割れのことを指す。ひびの間から繊維などを採取し、遺棄される前の遺体のありかを探ろうと捜査班は考える。

「(遺体の)共通点ではなく、相違点が重要かも。全員肌の色が少しづつ違う、まるで色見本みたい」と、(実はウィルから聞いた)見立てを披露するカッツ。「実に斬新だ。犯人は被害者たちを、人ではなく色としか見ていなかった」と博士も同意する。「素晴らしい洞察だカッツ、まるでウィルがここにいるようだ」と。

 

<カッツとジャック>

「俺に相談もなくウィルに会いに行ったのはどういうわけだ」とカッツを問い詰めるジャック。「私だって行きたくて行ったんじゃない、あなたが行けばよかった」「ウィルは妄想狂かサイコパス、そのどちらだとしても信頼できない」自分がウィルを妄想野郎にしたか、彼がサイコパスだということを自分が見抜けなかったか、どちらかなのだとジャックは考えている。

「ウィルは人の命を救いたがってます」「だが今は内部調査が入り徹底的に調べられてるんだ!」精神鑑定まで迫られているジャックは、カッツに「この話はなかったことにする。なかったわけだから自分の仕事を思うようにやれ」頼んだぞ、と言い聞かせる。そう、結局はウィルの力が必要なのだ。

 

レクター博士の見立て>

博士は遺体の匂いからトウモロコシ畑に思いを馳せる。そこに佇む自分を妄想し、不気味に微笑むのだった。

 

<博士とウィル>

箱の中に閉じ込められたウィルに面会に行くレクター博士。「友情が放つ光は百万年かかっても私達には届かないと言ったね。今日は距離を縮められるといいが」「友情は対等な関係ではじめて成り立つ。精神科医と患者じゃ対等とは言えない」あくまで友情は生まれ得ない、と言い張るウィル。博士は動じない。

「頭の中で私を罪に問う材料を探したが、見つけられなかったようだね」「見つけられないだけだ」「見つけたとしてもそれは事実を曲げて解釈したもので真実じゃないんだ」「それはわかってる」前回までの頑なな態度から、(おそらくは戦略上)少し引いてみせるウィル。

「カッツ捜査官が来ただろう」こんな時に捜査協力なんてアラーナが心配するだろう、と揺さぶる博士に、「唯一正常なことに感じる、暴力を理解するときの思考が」「自分の欠けたものをそんなもので補うな」と言いつつ、博士は身を乗り出して「写真から何が見えた」と尋ねる。

「犯人は被害者同士を紐で縫い合わせてる。人間で絵を描いている」「それはなぜだ」「彼も何かが欠けている」。

 

<カッツとウィル、ふたたび>

捜査協力の見返りをカッツに求めるウィル。責任者のチルトンは面会者と自分の会話を録音して楽しんでいる、ことを知っているウィル。「僕に不利な証拠を無視してほしい」「それは無理」と断られ、ウィルはこう呟く。「犯人はクレヨンの箱に、あと何色増やす気なんだろうね」。動揺するカッツに「捜査を一からやり直すんだ。僕が無実なら新たな証拠が出る」と迫り、彼女から協力の約束を取り付けるウィル。

カッツから受け取った新たな遺体の写真を眺め、目を閉じるウィル。まるで目の前に遺体があるかのように語りだす。「皮膚の色がそれほど変色していない。保存状態はいいのになぜきみを捨てた?」

薬物依存、それもヘロインをやっていたせいで耐性があり、過剰摂取で死なずに生き延びたことを見抜く。「彼は自分の身体を引きちぎり、逃げた」。犯人は絵の中に戻そうとした。他の捨てられた失敗作の遺体とは違い、この彼(ローランド)は自ら逃げ出したのだとウィルは言い当てる。犯人には倉庫のような、見つからず作業できる場所がある。遺体発見場所より上流、河の近くだと。

ハンニバルは、なんと言っていた?」「犯人が他の遺体同様に捨てたんだろうって」「…そう話したんだろうけど、そう考えたとは限らないな」この意味がわかるのは、世界でふたり、博士とウィルだけである。

 

レクター博士の暗躍>

いつものスーツの上にビニールの防護服と手袋を身に着けた博士は、匂いと推理で探し当てた犯人のサイロによじ登る。上から見下ろすその遺体でできた瞳の絵に見惚れるレクター博士。そこへ犯人がやって来る。

「やあ。見事な作品だ」迷うことなく声を掛ける博士。

 

<現場の発覚>

博士とウィルの助言をもとに、カッツは犯人の犯行現場をついに発見する。初めて訪れるような顔でやってきたレクター博士。大量の遺体を縫い合わせて作られた凄惨な現場で「人がここまで残忍になれるとは」と呻くジャックに「生まれと育ち、どちらで決まるのだろうね」と嘯く。

「生贄を捧げる儀式なのか? 誰への?」「犯人は神を見ているのかも。存在意義に悩んでいたとしたらその目には何も映っていないはずだ」繰り返されるか、と尋ねるジャックに「これは始まりか終わり、あるいは両方だ。もう殺しはしない」と断言するレクター博士である。「犯人は人を、目的を達成する手段としか見ていない。自分の目的のために利用するんだ」と。それを聞いたジャックは自らを振り返る。

 

<ジャックの精神鑑定>

「ウィルは目的を達成するための手段でした」人を救うために犠牲にした、とジャックは精神科医に語る。「重荷に耐え、戦えると思ったが間違いだった」と過ちを認めるジャック。ウィルが凶行に及んだと知って、彼への見方、人を見る目が変わった。「世界の闇が深まったんです」ウィルを現場に出し、周囲が止めるのも聞かなかった、と後悔を隠さないジャック。誰だって間違うさ、と言われても「彼は友人であり殺人犯だ。だが2つを結び付けられない」と悔やむのだった。

 

<謎の一体>

発見された遺体の47人中、身元が判明したのは19人だけだった。縫い目がローランドのものと一致する、脚を切られた遺体をめぐり、議論を重ねる捜査班。「肌の色まで変更してます」。その遺体と上から撮られた現場の写真を見比べるジャック。「博士が言っていた…その目は現世ではなく来世を見据え、そこに映る人間を見ている」何も映らないはずだった。「存在意義に悩んでいたはずが、信仰を見つけたのか」…。

一方その頃、すね肉の煮込みを優雅に作るレクター博士。赤ワインとともに、優雅にそのかけらを口に運ぶ。

 

<ジャックとベデリア先生>

これを最後に、ハンニバル・レクターに関して話すのを辞めるとジャックに言いに来るベデリア先生。「不安に思うことがあるんです」だから今の状況から自分を解き放つことにしたと。

ハンニバルにとってのウィルが私にもいたの。頭では向き合うべきだとわかっていても、思い出したくないんです」レクター博士に相談したら、と提案するジャックに「さよなら」とベデリアは決別を告げる。

 

<ウィルとカッツ、そして博士>

ウィルの協力を仰ぎに病院へ面会にやってくるカッツと博士。「この事件のせいで、あなたに頼まれた仕事(ウィルが罪を着せられている連続殺人の捜査)まで手が回らないの」と事件現場の写真を差し出すカッツ。「この目にはどんな光景が焼き付いているんだろう?」そうしてウィルは、犯人と同化する。

「僕がきみたちを加工し、配置した。僕が描いた絵だ。死者の目に映るもの、最後の意識、何も見えない…でも、誰かがこちらを見ている」呟くウィル。「この中のひとつだけがふさわしくない。他と違っている」きみは誰だ?なぜきみは他とそんなに違うんだ。きみは僕の絵にはいない。振り仰ぐと丸い天窓から、鹿の角をつけた黒い化物が見下ろしていた。それを、遺体の絵の一部になってウィルは見上げていた。

「神も殺しを楽しむ。だからしょっちゅうやる。人間は神の子だからね」。その目には、自分を縫い付けるハンニバル・レクターが映っていた。

意識を取り戻したウィルは、「犯人は絵の中にいる。縫い付けられてるこいつだ」と告げる。脚がないのは戦利品として、縫い付けたやつが持ち去ったとウィルは見抜く。

 

<犯人とレクター博士

私と君の共作だ、と犯人を絵の中央に縫い付けるハンニバル。「なぜ俺を助ける?」意識のある犯人は逃げられないまま尋ねる。「君が描いた絵は今神を見てる。そして君を見てる。神が君を見下ろしているなら、見返したいだろう?」

 

<監査官ケイティとウィル>

ウィルのもとへ、FBI監察官のケイティがやってくる。「裁判の争点はあなたがやったかどうかじゃない。自分の犯行を認識していたかどうかよ」。アラーナは無意識の犯行だと主張している、とケイティは語る。「FBIがあなたを殺人鬼にしたという主張よね。でも支持されてない」検察はあなたを知的なサイコパスだとする。サトクリフ医師と共謀して、ありもしない嘘の病気をでっちあげたのだと。「そして僕は、その神経科医を殺したわけだ」「法廷にいる誰もがそう理解するわ」取引しましょう、とケイティは持ちかける。罪を認めれば裁判はしない、ここで不自由なく暮らせるように手配すると。

「ぼくは無実だ」「あなたは正気を失っていた。それは誰の目にも明らかだったの」このままでは有罪で死刑判決を受ける、助けてあげるわと語るケイティに、「自分の身は自分で守るさ」とつっぱねたウィルは、またも川釣りの妄想にふけるのだった。その川には、人間の遺体が魚のように流れていく。

 

<ベデリア先生とウィル>

ウィルを訪ねてきたベデリア先生。「話を聞いていたせいで、あなたを知ってる気がする」「知らない」「ええそうね、でも一度身を引く前にあなたに会っておきたかったの」「何から身を引く?」「社会との絆から」

「あなたもきっと、この試練を乗り越えられる」「試練とは?」近づいてくるベデリア。「あなたを信じるわ」たった一言を残し、彼女は看守に連れられていった。

 

<ベデリア邸での博士>

例のビニールスーツを着て忍び込むレクター博士。家具に布がかけられ、封鎖されているそこはベデリアの診療所。そこに残されていた香水の香りを嗅ぎながら、「あなたという人は危険だわ」という彼女の言葉を思い出す博士だった。

 

*****

 

レクター博士の前で泣いたり、ハンニバルの仕業だというのはあくまで自分の妄想だと認めてみせたり、カッツに捜査のやり直しをとりつけたりと、脳炎が落ち着いたせいか、格段に冷静になっているウィル。彼がもともとは非常に聡明であること(そしてシーズン1後半では脳炎のせいでずいぶんと弱り、博士によって混乱させられて真価を発揮できていなかったということ)がわかる第2話。

 

かつては博士のことを信じ切って言われるがままに操られていたが、ここへ来て「博士の言うことと考えていること、ましてや実際の行動は一致しているとは限らない、いや(殆どの場合)大きく異なっている」という秘密に、ひとりたどり着いているのがさすがである。勿論ウィルほどの洞察力の持ち主であれば、人の嘘には敏感に気づくはずだが、それを今まで(シーズン1の間じゅうずっと)騙し通してこれていたのも博士のサイコパスたる所以でもある。

 

ウィルはハンニバルによって犯人に仕立て上げられ、それを声高に喚くことを諦めたウィルは、しかしその強靭な精神力と頭脳で、これからハンニバルを包囲する戦いを孤独に戦い抜こうとしている。まず引き入れるのが聡明で心優しいカッツ、というところも賢い。そう、ハンニバルの恐ろしさとウィルの誰にも真似できない能力の高さは表裏一体であり、ふたりはシーズン2冒頭にして早くもお互いがお互いを悪魔にし合っているのだ。

 

今回の事件は50人以上の被害者が出ており、陰惨極まりないが、例によって美しい映像によって一種の芸術にまで感じられるのが恐ろしい。ウィルの全裸(?)まであり、博士のビニールスーツ姿も満載と、見どころが尽きないエピソードであった。スネ肉料理して食べるところ、怖すぎませんか??

 

そしてベデリア先生はここで一旦退場、唯一ウィルの告発を信じるが、ハンニバルを恐れたか。ケイティ監察官の真の狙いもまだ謎めいており、続きが気になる。

 

 

【ハンニバル】S2E1:Kaiseki(懐石)

■あらすじ

真っ赤な肉をキッチンで切り分けるレクター博士のもとへジャックが姿を見せる。目が合った途端、ジャックは銃を構え、レクター博士はその手に包丁を投げつける。始まる熾烈な格闘。ジャックは博士にガラスの破片で首を切り裂かれて扉の向こうに逃げ込む。一体2人に何があったのか。物語は、12週間前に遡る。

 

<12週間前:博士とジャックのディナー>

相変わらずの優雅な手さばきで料理を拵えるレクター博士。「まずこの皿は向付だ」と美しい懐石料理をジャックに振る舞う。「なんだか食べるのに罪悪感を覚える」と語るジャックに「私にはそんな経験はないな」と囁く。そう、彼に罪悪感はない。たとえ何が起き、何が失われようとも。

 「おばのムラサキにおなじもの(ヒラメ)を振舞った時も、似たような不幸な状況だった」と語る博士。「その時は何があったんです?」「喪失。今も同じだ、ウィルを失い喪に服している」。

 ウィルを失った責任は自分にもある、とお互いに慰めるように言い合う博士とジャック。ウィルはFBIで裁かれ、またウィルから真犯人として名指しされているレクター博士もまたそうなる、とジャックは言う。平然と「私を捜査すればいい。罪が晴れればそれでいい」と答える博士だった。

 

<囚われのウィル>

一方、5件の連続殺人事件の犯人として逮捕されたウィルは州立ボルチモア精神障害犯罪者病院でチルトン医師と会話させられていた。

「僕はあなたと話すつもりはない。レクター博士と話したい」とだけ答え、かつてよく行っていた川釣りと、そこに現れる黒い角の化物の幻想にふけるウィルだった。

 

<内部調査が近づくジャック>

アラーナのウィルに関する報告書(ウィルを捜査に出さないようジャックに進言したにも関わらず、ジャックはそれを聞き入れることがなかった)をめぐり行われる面談。悪いことは言わない、ジャックの名誉のためにも報告書を撤回しろと迫られてもウィルのために撤回はしないと言い張るアラーナだった。

 

<ベデリア先生とレクター博士のセラピー>

「ウィルが私に会いたがっている。私も会いたい。彼の思考回路にはまだ興味がある」と語るレクター博士。「ウィルが会いたいと望むのはあなたを操ろうとする真意の現れ」とベデリア先生。「私が会いたがるとしたら?」「ウィルのことを操ろうとする真意の現れね」。2人はそう、どこまでも鏡の一対なのだ。

 「会いたいんだ」「あなたはウィルのことで頭がいっぱいなのね」「惹かれてる」「執拗なまでにね。ウィルはそこにつけこむでしょうね」「彼は友人だ」「どうしてそう思うの」「ウィルは自分の精神を不気味だと想いつつも有益だと想っている。彼は自分を抑えられない。素直で感心するよ」

「その素直さにあなたは共感しているんでしょうね。あなたは何を抑えられないハンニバル?」

その質問に目を見張り、沈黙と微笑、目をそらすことで回答を避ける博士だった。

 

<ウィルと博士>

「やあ、ウィル」ようやく病院へ現れたレクター博士。「前までは、頭の中で自分の考えが聞こえてた」それが今は、あなたの声のように聞こえるとウィル。「あなたを頭から追い出せない」と。

「友人関係にあることが、個々の境界線を曖昧にしている」と説明付けようとする博士に、「あなたは友人じゃない」ときっぱりと拒絶するウィル。「友情が放つ光は、百万年かかっても僕らには届かない。これは友情とは程遠い」。

殺人の責めを負うべきなのは自分ではなく私だと信じたいんだろう、と博士はウィルに言う。「内なる声に従えば行動を制御できるはずだ。したことの責任を受け入れ、考えを言葉にすれば明らかになる」「明らかですよ、あなたのことは」「私と話すことできみに自分の正体に気づいてほしかった」

 

あなたのしたことは、僕の頭の中にある。それを見つけ出す」と宣言するウィル。「僕は思い出してみせますよ、思い出したら、報いを受けてもらう」そこまで言われても博士の余裕も優位も決して揺らぐことはない。「私はきみに信頼を寄せている、いつだってね」微笑みを浮かべる博士だった。

 

<捜査に協力するレクター博士

カッツから腔内の細胞の採取を受ける博士。スーツも提供し、何も出てこなければ「ウィルががっかりするな」とぬけぬけと言い放つ博士。ウィルは自分の状況を理解しようと戦っている。「彼を守るはずでは?」「彼自身から?」「ええ。でも責めてはいません」ウィルの発していたはずの救難信号やサインに気づかず、こうなるまでに至ってしまったことについて自分自身にも責任を感じているカッツ。

あなたは、新しいウィルよ」その言葉どおり、FBIの事件捜査に協力するため博士は現場に出る。

  

《今回の事件:人間の剥製事件》

滝壺で清掃員により発見されたのは、樹脂でコーティングされた複数の遺体だった。その状態から「魚の剥製を作るときと同じだ。死んでもその形を守れる。人の剥製を作る気だ」と分析するレクター博士。河に捨てられた理由は不完全だったから。「ゴミってわけか」とつぶやくジャック。犯人の正体はいかに。

  

<ベデリア先生とレクター博士、その2>

捜査協力同意書にサインをし、ベデリア先生から患者である自分についての情報提供(ジャックへ)を認める博士。ウィルの訴えを受けてジャックが詳細を調査しているのだと語るレクター博士に「ジャック・クロフォード捜査官と親しいのね」と先生。いわば同士だ、と博士は答える。

「今日、私はウィルになった。ウィルの目を通してFBIの事件を見た」と感慨深く語る博士。

「なぜわざわざFBIの目があるところに出向くの? あなたが身の潔白を主張する代わりに、私は嘘をつくはめになる。またね」どこまでお遊びを続けるつもりなの、と尋ねる先生に「ジャックはきみほど私を疑ってはいない」と答える博士。「あなたの本性を知らないからね」「きみもだろう?」駆け引きは続く。

 

<アラーナとウィル、催眠療法

犬たちの面倒をアラーナに任せ、病院で様子を尋ねるウィル。ウィンストンだけはウィルを探して元の家に帰ってしまうのだと言いつつアラーナは希望を捨てない。「いつかちゃんと会えるわ、裁判に勝てばいい」と。FBIの弁護士を何人もクビにしているウィルに、「無意識下の行動で刑事責任を問えないと主張するの、あなたはどうかしてたのよ」と言い聞かせるように語る。

「僕が何をされたか、もし思い出したら?」「それを言うなら、(正気を失った状態で)何をしたかでしょう」そう、結局アラーナでさえ、ウィルの本当の意味での無実を信じてはいないのだ。苦虫をかみつぶすウィル。

ハンニバルの声が聞こえるんだ、頭の中で。実際の言葉でも想像でもない、別の何かだ」それが何なのか、ウィルにもまだわからない。

失われた記憶を呼び起こすため、2人は深層心理にアクセスするための催眠セラピーを試みる。気づけばウィルは恐ろしい角と漆黒の身体を持つ化物と晩餐会のテーブルを挟んで向き合い、目の前には皿に盛られたアビゲイルの耳があった。「! だめだ、効かない」あまりの恐怖に目を覚ますウィル。「何が見えたの?」答えられないウィルはただ震えるのだった。

 

<チルトン医師とレクター博士のディナー>

博士に肉抜きの料理を要求する、復活したチルトン医師(まだ杖をついている)。ウィルは私とは話してくれない、お手上げだと語る彼に、「どんな精神科医でも、ウィルには手を焼くさ」と答える博士。

ウィルとアラーナは催眠術を試して記憶を取り戻そうとしていた、と言うチルトン医師に「うまくいったのか」と確かめる。勿論そんなはずもなく、「ウィルはきみの話ばかりしているよ、きみは怪物だと言いふらしてる」と笑うチルトンに、「ならきみは殺人鬼と食事中だな」と笑い返し、乾杯する博士だった。実に満足げに。

 

<続く事件捜査>

発見された6人の身元はバラバラで、共通しているのは自宅から車で姿を消していること。また、大量のヘロインが検出され、色素を保つ酸化防止剤を注入され、身体がやせ細らないようシリコンを詰めて表面を樹脂で固めている。狙いはランダムで、見つかった遺体はあくまで捨てられたもの。犯人のもとには一体いくつの遺体があるのか。捜査に向かうジャックをよそに、ウィルのもとへ向かうカッツ。 

ジャックに黙ってウィルを訪ねるカッツ。「単独捜査なの」と今回の事件についてウィルの意見を求める。犯人は狙いを定めて家までつけていって攫い、保存するのだと。標的の選び方が謎なのだと、行方不明者の写真と遺体の写真をウィルに見せる。「何が見える?」。

行方不明者と犠牲者の写真を並べ直すウィル。「これは色見本だ」。恐るべき結論を導き出してみせるのだった。

 

<甦る記憶?>

ビニール防護服をまとったレクター博士に、口の中に透明なチューブを差し込まれ、耳を飲み込ませられた。そんな記憶が浮かんで慄くウィル。それなら、アビゲイルの耳を吐き出した説明がつく。

 

<ジャックとアラーナ、ウィルの自宅で>

ジャックはひとり、ウルフトラップのウィルの自宅を訪れる。現れたのはウィルを探しに来た犬のウィンストンと、そしてアラーナだった。「報告書を出すことにした気持ちは理解できる。俺の判断に疑問を感じて当然だ。記録に残ればウィルの弁護に役立つしな」でもハンニバルは無実だ、と語るジャック。「ウィルもです。でもハンニバルを犯人だと信じて、自分と向き合わずにいる」「自覚はなかったんだろう? そうだと言ってくれ」「彼がサイコパスなら真実を恐れたりしません。ウィルは恐れながら真実を見つけようとしている」。 

ウィルが正気でやったとは信じたくない2人。けれどハンニバルがやったとも、ウィルが真の意味で潔白だとも思ってはいない。ウィルへの愛情と、彼がやったという証拠、現実を受け入れないウィル、進む内部調査、すべてに引き裂かれていく2人だった。

 

<ジャックとウィル>

病院のウィルを訪ねるジャック。「昔のきみを思い出しに来た」。ハンニバルに嵌められたんだと信じていたが記憶も証拠もなかったと語るウィル。今は違う、記憶の欠片が甦ったのだ、ハンニバルは巧みに、皆がウィルを殺人犯だと信じるように仕向けたのだと主張するも、「DNA、指紋、服の繊維まで博士を調べたが何も出てこなかった」と突っぱねるジャック。「もういい加減にしてくれ」「僕はあなたが探している知的なサイコパスじゃありません!」「じゃあなウィル」出ていってしまうジャック。

今は信じてもらえなくても、いずれ信じる」そう呟くウィルの前にはもう誰もいない。

 

<悪夢のような目覚め>

拉致され薬をもられた青年が目を覚ますと、膨大な数の人間の体とともに、みっしりとサイロの中に渦巻状に詰め込まれていた。叫び声を上げても、誰にも届かない。

 

*****

 

凄まじいジャックと博士のパワーファイトで始まり、謎の人体改造事件は途中のまま、クリフハンガーで終わるシーズン2第1話。のっけからパンチの効きまくった展開である。作中屈指の名言「友情が放つ光は百万年かかっても僕らには届かない」「(ウィルに)惹かれてる」が登場するのも見どころだ。

 

今回、奇怪な遺体判明事件はあるものの主題はあくまでもウィルにあり、何が悲しいってすべてがハンニバルの仕業だという「真実」はウィル(とハンニバル)以外にとってはウィルの現実逃避にすぎず、「ウィルを助けたい」と願う周りの人々も、決してかれの潔白(無罪ではなく)を信じてはいないというところ。

アラーナも、ジャックも、立場や考えは違えど「やったのは(正気を失くした)ウィル」という点については疑いようがないと考えており、捜査にも協力的で謙虚なハンニバルがまさか真犯人だとは、この時点ではウィル以外の誰も思っていないのだ。(唯一、ベデリア先生だけはなにかに感づいている?)

 

そして今回、博士はジャックにもチルトン医師にも魚(人肉ではない)を振舞っており、これは彼が一時的に自らの一連の作戦がすべてうまくいったことに満足し、殺しをやめているということだろうか。。

睫毛の震えさえも緻密に計算された博士がDNAや服の繊維などといった痕跡を残しているはずもなく、ウィルにあるのはただ「甦った(一部の)記憶」と信念のみ。まだまだ盤石に見えるハンニバルの天下を、一体どう切り崩していくかが見ものだ。それにしてもチルトン医師、あれだけの目に遭ったのに元気である。

 

 

【ハンニバル】S1E13:ザヴルー

■あらすじ

黒い牡鹿を狩る夢にうなされて目覚めたウィルは、違和感を感じて口から人間の耳を吐き出す。一緒にミネソタに行ったきり行方の知れないアビゲイル(ウィルには途中の記憶が無い)のものではないかと震えるウィルに、助けを求められてやってきたレクター博士は優しく毛布を差し出すのだった。

 

《今回の事件:アビゲイルの失踪(殺害?)》

姿を消したアビゲイル。ウィルが吐き出した耳は彼女のものであり、最後に一緒にいたのも彼であることから参考人としてウィルは連行される。寂しそうに連れて行かれるウィルを見つめるウィンストン(犬)が切ない。

※ウィルは前回共に訪れたミネソタの「百舌」の狩猟小屋でアビゲイルを殺す幻覚を観たが、現実に何が起きたのかは把握できていない。実際はアビゲイルは自宅に戻りレクター博士と逢っていた

 

<ウィルの不利となる証拠群、アラーナとジャック>

「証拠から犯人を導き出してみて」と同僚のカッツに言われ、「証拠から考えると、僕がアビゲイルを殺した」と答えるウィル。ウィルの爪からは血や皮膚が見つかり、腕には抵抗された跡、ジャックをはじめとする捜査班は精神を病んだウィルが彼女を殺したと判断せざるを得ない状況となる。

一方アラーナはジャックに「だから深入りさせるなといったのに」と激高する。またどうしてハンニバル・レクターほどの男が異常に気づけなかったのかと。

本当の元凶は脳炎だが、レクター博士が検査結果を偽り、検査を行ったサトクリフ医師も殺しているためジャックは「治すべき原因がない、脳に異常はない」とアラーナに答える。アラーナはホッブズと同化し彼を殺してしまったことが元凶だと考える。ウィルは奴の望みを叶えた、とジャック。「私達がアビゲイルを殺した、ウィルのことも」絶望するアラーナ。

 

<アラーナの献身とウィル>

重要参考人として囚われの身となったウィルのもとをアラーナは訪ねる(ジャックの監視のもと)。「傷つかずに済んだね」と皮肉を囁くウィルに、「そうとは思えない、ひどい痛手だわ」と返すアラーナだった。犬達の面倒は、あなたが戻るまで私が見るとも。

脳の異常をまだ疑うアラーナはウィルに時計の文字盤を描かせようとし、以前にレクター博士が同じことを行って”異常が見つからなかった”というウィルの答えを聞いて不審に思う。そして実際にウィルが目の前で描いた文字盤は、やはり片方に偏った異様なものだった。

 

レクター博士とベデリア先生>

明らかな証拠があるのにアビゲイルが生きていると期待してしまう、とべデリアの前で涙を流すレクター博士。「子供を持つつもりはなかったのに」アビゲイルに出会って、愛する子を支えて導く魅力を知ってしまった、と博士。

ウィルのことはまだ諦めていないと言う博士に、関わるべきではないとベデリアは諭すが「私なら力になれる、決着をつける」と博士は語るのだった。

 

<さらなる証拠>

ウィルの自宅の毛鉤(釣りのために自作していた)から人体の一部が発見される。今まで「模倣犯」に殺されたとされていた被害者4名のものである(キャシー、マリッサ、サトクリフ、そしてジョージア)ことが判明し、捜査班はウィルこそが模倣犯、ずっと追っていたシリアルキラーではないかと考える。

※実際には毛鉤に証拠が残っていたのは、第4話のように簡単にウィルの家に入ることができた(おそらく留守中の犬の世話のために合鍵をもらっていた?)レクター博士の小細工と思われる。 が、当然ながらそのことには誰も思い至らない。

 

<ウィルとジャック、そしてウィルの逮捕>

なんとかウィルが無実であると考えたいジャック、ウィルも覚えていないことは告白できないと語る。覚えのない殺しの証拠を突きつけられ戸惑うウィル。少なくともマリッサ達が殺された時、自分は正気だったと。

ようやくウィルは、「誰かが僕をはめた」と気づく。「あなたの身近にいる誰かが仕組んだ」捜査に精通している人物で、ウィルが不安定であることも知っている人物だと語るウィルだが、ひどい被害妄想だとジャックは相手にしない。

ついにウィルはジャックにより逮捕されてしまうが、移送中にウィルは脱走して行方をくらます。

 

<ジャックとアラーナ、レクター博士

脱走したウィルの脳炎を未だ疑うアラーナに、無意識で5人も殺すことがありえるのか、認知症ではなくサイコパスだとジャックは断定する。その疑いに乗じ、模倣犯ホッブズに電話したことさえウィルなら可能だったと巧妙に罪をなすりつけるレクター博士ホッブズを引き当てたのも手品のようだった、少し怪しいと。時計の文字盤でさえ、わざと異常に描くことは可能である。

 

<ウィルとレクター博士

ふたりが帰った後、診療所の二階に現れたウィルとレクター博士は会話する。「新たな証拠がない限り君が殺した可能性はある」「アビゲイルだけなら僕も納得した(他の4人は殺していない)」。君は常に自分をわかっているわけじゃないと語る博士に、「誰かが僕を犯人に仕立てようとしている」とウィルは言う。そこで博士は、では犯人であると仮定して振り返ってみよう、とセラピーを申し出るのだった。

 

今までの”模倣犯”の被害者:

1)キャシー・ボイル:「ミネソタの百舌」を模倣し、鹿の角で突き刺されて晒された(第1話)。

 →(博士)君は捜査で手口を知っていた。彼に近づくために殺したのでは?「あの時はミネソタにいなかった」と反論。けれど土曜に失踪し月曜に発見されたため、週末なら可能だと更に返される。

2)マリッサ:「ミネソタの百舌」の模倣で、ホッブズの狩猟小屋で角に突き刺されていた(第3話)。

 →アビゲイルに似ていると思ったのでは? 同じ身長・体重・髪の色も同じ。ホッブズが殺さなかったのが不思議なはず。

3)サトクリフ医師:ジョージアの手口を模倣、喉(顎)を切り裂かれて舌を取り出された(第10話)。

 →君が殺したと錯覚した女性の手口と同じ。頭のなかに入って取り憑かれてしまったのでは?

4)ジョージア:酸素カプセルの中で焼死。おそらく第3の殺害を目撃したために殺された(第12話)。

5)アビゲイル:遺体は見つかっておらず、ウィルの口から耳が吐き出された。最後の居場所はミネソタ

 

これまでを振り返り、ウィルは「僕をミネソタへ連れていってください。アビゲイルの殺害現場へ」とレクター博士に依頼する。そこで犯人をプロファイリングしようと言うのだ。

 

ミネソタへ>

姿を消したウィルと博士はミネソタへ。アラーナとジャックはベデリア博士のもとを訪れ、彼女は「ウィルを助けられるのはレクター博士だけ」と語る。

一方ウィルとレクター博士は、すべての始まりとなったホッブズ邸へと向かう。ウィル達があの日捜査の手をのばすほんの一瞬の隙をついて、模倣犯ホッブズに電話したのだ。

 

そうして、博士とウィルはホッブズの殺害現場で言葉をかわす。

「君は特別だからこそ孤独なんだ」

「あなたと同じ」

「ずっと抑えてきた衝動に従い、直感のままに別の誰かになった」

「自分が誰かは知っている。わからないのは、あなたが何者かだ――僕らのどちらかが、アビゲイルを殺した

犯人は他にも殺しているんだと言うレクター博士に銃を向けるウィル。博士は驚いた様子で「それが本当の君か。君は人殺し?」「僕はいつもどおりだ、ようやく視界が開けた。あなたが見える、今は」「何が見える?」

とうとうウィルは気づく。「電話の男だな」アビゲイルは知っていた、だからあなたも彼女の秘密(ニコラスを殺した)を守ったんだと。すべてを見通したウィルにそれでも博士は動じず、私も殺すのかと訪ねる。そこへひっそりとやってくるジャック。

 

「あなたには動機がない、ただ見てみたかったんだ…僕のような特殊な人間を挑発して、どうなるかずっと観ていた。僕はこうする」博士を撃ち殺そうとするウィルを、今度はジャックが撃った。

 

<結末>

撃たれて入院したウィルは右脳に炎症が見つかった。回復の見込みはある、と付き添いながらジャックに語るレクター博士(あくまで銃で脅されてミネソタに行ったことになっている)。

「壊れていく人間を多く見てきたが、こんな壊れ方は、見たことがない」と嘆くジャックに、「人はそれぞれ違う」とだけ告げるレクター博士だった。

 

ベデリア先生とディナーを共にした翌日、レクター博士ボルティモア州立精神病院を訪れる。そこには緑の制服を着せられ、収容されているウィルの姿があった。

 

やあ、ウィル」「ハロー、ドクター・レクター」檻の向こう側と此方側で、運命の2人は向かい合う。

  

*****

 

ついに訪れたシーズン1フィナーレとなる第13話。博士の涙がセラピーで見られるが、この涙も本物にしか見えないのが恐ろしいところである。実際博士は上記の模倣犯事件以外にも切り裂き魔としてバンバン殺しまくっているのであるが、ウィルが着せられた罪は5件。とんでもない迷惑だが、ウィル自身の不安定さと病が周囲にそれを信じこませてしまうのが切ない。

 

ジャックからすればずっとそばで励まして(というか怒鳴りつけて)大丈夫だと信じて共に戦ってきたウィルが最初からどんどん壊れていって何人も殺していた、最後にはあのレクター博士まで殺そうとしたという(見せかけの)事実はあまりにもショックだろうが、平然と慰める博士がシーズン2を思わせる。

そして最後にベデリア・デュ・モーリア博士と仔牛を食べるレクター博士。この2人も相変わらず謎である。

 

しかし考えてみればここで真相に気づくウィルもまた常人ではなく、どこで博士の策略だと気づいたのかは微妙だけれども確信を持ったのは「よく考えたらこの人、うまい具合に僕に自分が殺したって思い込ませようとばかりしてるな」ってところだったのかと。衝撃的な結末、来週からはシーズン2とシーズン3(スタチャン)を平行して見られるといいな。

  

【ハンニバル】S1E12:ルルヴェ

■あらすじ

「いつか(心を病んで)人を傷つけるかも」というレクター博士の予言通りにギデオンを撃ち、原因不明の高熱で入院しているウィルのもとへレクター博士烏骨鶏のスープを手作りして届ける。ジャックにはまだウィルがそこまで深刻な状態であることは伝えていない博士であった。

一方ジョージアは物音で目覚め、酸素カプセルの中にあった櫛で髪をとく。するとその静電気で火がつき、カプセルの中で彼女は人知れず焼死する。

 

《今回の事件:自殺?事故?ジョージアの焼死》

高濃度酸素カプセルの中で焼死したジョージアは、静電気防止用のブレスレットを外していた。殺人の容疑者である彼女が自殺したと考えるジャックらに、ウィルは彼女は自殺ではないと分析する。

 

<ラウンズ記者とアビゲイル>

アビゲイルの本について打ち合わせを続けるふたり。キャシー・ボイルとマリッサの死もまた父のせいだと語るアビゲイルに、ではニコラス・ボイルの死は誰のせいかとラウンズは問う(実際にはアビゲイルが殺している)。彼はただのお子様、殺人鬼ではないと見抜いていたのだ。

「殺人者には独特の敵意がある、ウィルに会う度それを感じる」と語るラウンズ、「ニック殺しも彼では? 模倣犯扱いされたあとでニックは無実なのに殺された」と彼女は見立て、アビゲイルは怖れる。

 

<ウィルの精神状態の悪化>

家に戻ってもジョージアの悪夢を見るウィル(いい加減パンツ1枚はやめたらしく下を履いている)。目の前でジョージアの身体は牡鹿の角に突き刺され燃え尽きるのだった。

夢から覚めたウィルはジャックの元を訪れ、「ジョージアはサトクリフ医師を殺した犯人に殺された」と分析するがジャックは信じず2人は衝突する。(医師の遺体にはジョージアのDNAがあったため、彼女が殺したとみなされている)

 

<ジョージアの死、そしてサトクリフ医師の殺害について:模倣犯の存在>

カプセル装置に使われていないプラスチックの残骸が見つかり、おそらく、それが凶器だと見立てるウィル。

さらにサトクリフ医師の殺害についても、一度目の被害者(第11話で殺された女性)の手口を真似しているものの微妙に異なる(顎をほぼ切除している)ことを指摘し、「マリッサやキャシーを(ホッブズの手口を真似て)殺したのと同じ模倣犯」のしわざだと大胆なプロファイリングを披露する。顔を見られたからジョージアも殺したと。

ニコラスは模倣犯ではなかったという分析に、ジャックはウィルの精神状態を心配してレクター博士に相談する。「彼は我を失っている」「心の病だとしても支えよう」と博士はウィルの不安定さと精神病を否定しない。

 

※実際にはウィルの見立ての通り、レクター博士が「ミネソタの百舌」ホッブズの手口を模倣してキャシー・ボイルとマリッサを串刺しにしており、更に今回はジョージアの手口を真似てサトクリフ医師を殺している。

 

<ベデリア先生とジャックとレクター博士

ジャックはレクター博士が事件の情報を隠しているのではないかと考え、彼の精神科医であるベデリア女史のもとを訪れる。

「彼が危険だとは思わない、ウィルとの関係を知りたい(どういう意味だよ)」と迫るジャックに守秘義務違反だとベデリア先生は断る。「彼は患者、特にウィルのためにどこまでやると思う?」という問いに、「ウィルは患者というより友人だと言っていた、友人は少ないから誠実に向き合うはず。ウィルを助けたいのよ」と彼女は答えるのだった。

その後彼女がレクター博士に、ジャックがここにきたこと、ウィルに関する博士の話が本当かどうかを確かめに来たと告げると、博士はジャックがアビゲイルは父と共犯であり、それを知っているウィルを博士がかばっていると考えているのだろうと推察する。そんな博士に、「ウィルにしていることはやめるべき、仕事の範囲を超えている」とベデリア先生は忠告するのだった。

 

<ウィルとアビゲイル、レクター博士

ホッブズ模倣犯にはつながりがあった、というウィルの仮設に立ち、改めてホッブズの足取りを追う捜査班。

一方アビゲイルは「ニコラスを殺した時いい気分だった」と病院でウィルに打ち明ける。ウィルもまた、彼女の父である殺人鬼ホッブスを殺した時には力を感じた(出た、レクター理論)と認める。ふたりはある意味ではまだホッブズにとらわれており、きっと模倣犯を捕まえてみせるとウィルは語る。「だが、君の手助けがいる」と。

その後、一時的に熱が下がり「ようやく模倣犯のことがわかってきた」とセラピーでレクター博士にウィルは語る。模倣犯捜査の状況を詳しく知ることが出来る人物(「君のような?」と博士には言われる)であり、今の狙いは自分。すべてはホッブズへの電話が始まりだと。アビゲイルをミネソタに連れて行くと言うウィルに博士は反対する。そう、模倣犯は彼であり、今回もウィルの見立ては当たっているのだ。

 

<アビゲイルへの捜査とウィルの行動>

捜査班はホッブズが獲物を物色するときには娘を連れて行き、彼女が囮になっていたのだと見抜く。さらには彼女自身が模倣犯ではないかとさえ考え、ジャックはアビゲイルを訪ねる。すると彼女はウィルにこっそりと連れだされており、そこにはラウンズ記者がいた。

アビゲイルを連れ去ったウィルの考えを探りに訪れたジャックに、ウィルは記憶をなくしてしばしば別の人格になっているレクター博士は告白する(恐ろしい策略である)。そしてジャックはマリッサ・ジョージア・サトクリフの殺害時にウィルにアリバイがなく、乖離した時はホッブズの人格に近づいているというレクター博士の証言を耳にするのだった。つまり、ウィルはホッブズが殺そうとしたアビゲイルを殺すつもりなのではないかと。

 

<アビゲイルとウィルのミネソタ行き>

ウィルはアビゲイルをミネソタにあるホッブズの狩猟小屋へ連れて行く。鹿の角に覆われたその場所で、自分は少女達をおびき寄せるおとりだったと打ち明けるアビゲイルを殺す幻影を見て高熱に浮かされるウィル。

「君は父親と共犯だった、君か君がよく知る相手が模倣犯では」「あなたこそ模倣犯じゃないの」と言い合ううちに意識を失い、気がつくとウィルはひとりで飛行機の中にいた

 

<アビゲイルとレクター博士

様子のおかしいウィルを小屋に置き去りにして自宅に戻ったアビゲイルを待っていたのはレクター博士だった。抱きしめて「君が心配だった」と囁く博士。

「ウィルは家に電話した人が犯人だと言ってたわ」なぜ父に電話したの、と尋ねるアビゲイルに、博士は「どうなるか興味があった。マリッサを殺した時も君がどうするか知りたかった」と告げる。そう、父親と同類でニコラスを殺すか観察したかったのだ。すべてを知ったアビゲイルは尋ねる。

 

「今までに何人殺したの?」

「君のお父さんよりも多く」

「私も殺すの?」

「すまない、アビゲイル。君を守れなかった」

 

優しく頬に触れるレクター博士の指、アビゲイルは逃げられない。

 

*****

 

冒頭から友人としてウィルに尽くす博士が見所の第12話。ここまで姿の見えなかったすべての事件の「模倣犯」を一つに繋げるウィルの見立てが見事な一方、余裕で掬ったスープに息を吹きまわしかける博士のしぐさが優雅である。

ずっと治療と戦い、原因のわからぬ病で誤解されてきたジョージアのために「自殺なんかじゃない、彼女の死まで誤解させたくない」とひとり闘うウィルが健気だが切ない。もはや誰もウィルを健常な状態として扱ってくれないのだ。ウィルは脳炎であることを知っているのはもはやレクター博士だけであり、完全に精神がおかしいひとだと思われているのが不憫である。

 

そして今回久々登場の麗しのベデリア先生、S2まで見てから振り返ると、レクター博士の患者だった男がかつて彼女を襲ったのもまた、巧みに博士が操った結果なのだろうと思えて恐ろしい。「博士のような友人を持つことはウィルのためになる」というこの時点での彼女の分析は、結論から言えばやはりレクター博士の支配下にあるがゆえの見立てにすぎないのだから。

あくまで誠実な友人たろうとする姿を見せるレクター博士、セラピーでウィルから離れつように言われて取り乱したように見える姿でさえすべては彼の計算である。

 

ウィルを精神を病んだ殺人犯に仕立てる見えない包囲網(レクター博士が巧妙に編んだ網)が狭まっていく第12話、次回がシリーズ1の最終回。ここに至るまでに博士が綿密に計算して行動してきたことを振り返ると本当に恐ろしい物語である。ウィルちゃん頑張れ。

 

 

【ハンニバル】S1E11:ロティ

■あらすじ

ギデオン(第6話に登場)に関して、ナルシシズムがあるから操りやすく、「切り裂き魔と思い込ませた」と洗脳を認める会話するレクター博士とチルトン博士。

一方悪夢を観てはうなされ、本人の知らない所で脳炎に冒され症状が悪化するウィルは次第に妄想と真実、夢と現実の区別さえつかなくなってゆく。

 

《今回の殺人事件:ギデオンの脱獄》

ギデオンは自らを「切り裂き魔」だと洗脳し看護師を殺させたとしてチルトン博士を訴えると言い出す。裁判所への移送が始まるが、途中で付き添いの係員達3人を殺し、ギデオンは逃走する

奴は自分が何者なのかわからなくなってきている、と血管で内臓を枝に吊るした事件の様相を観てウィルは分析する。切り裂き魔なら臓器を持ち去るはずで、ギデオンは本物の切り裂き魔の気を引こうとしている(同時に人格も引き裂かれてしまっている)と。

 

レクター博士とウィルのセラピー>

捜査協力を続けるが、幻覚や幻聴はますますひどくなり「自分が何者か分からない、少しづつ変わっていく気がする、他の誰かに」と博士に打ち明けるウィル。正気を失い自分がわからなくなってしまうことを恐れるが、ギデオンもそれが怖いのではないかとも分析する。誰か(チルトン博士)が頭のなかを引っ掻き回したから。

「ギデオンは切り裂き魔を見つけて自分が何者かを確かめたいんだ。君には私がいる」と優しく語るレクター博士だった。

 

<ギデオンの狙いについて、そしてアラーナ>

被害者の脳をかき混ぜていることから、「頭を引っ掻き回された」と感じているに違いないギデオンは過去の精神医療担当者達を狙う可能性があるとウィルとジャックは考える。そしてアラーナ・ブルーム博士もその1人だった。護衛がついたアラーナを訪ねるウィル。熱っぽい、と言われてストレスのせいだと答える(実際は脳炎である)。

ギデオンの行動は外部からの影響によるもの、自分にも責任があると考えるアラーナ。彼は自分を理解するために切り裂き魔を探していると考えるウィル。ただし、おそらく見つかれば切り裂き魔はギデオンを殺すだろうと。

 

<ラウンズ記者の拉致と第四の遺体>

ギデオンに関する論文を書いた精神科医、カラザース博士からの電話を受けるフレディ・ラウンズ記者。共同執筆しようと誘われて呼び出された先で待ち構えていたのは、博士を殺し喉から舌を取り出したギデオンだった。

精神科医の遺体を前に「舌の新しい使い道を与えた」と分析するウィル。血液はすべて抜かれて袋に詰められていた。これらはすべて切り裂き魔へのアピールである。そこへ「切り裂き魔再び」と最新の写真がついた記事がアップロードされ、ラウンズ記者がギデオンに拉致されたことをジャックらは知る。

ギデオンはラウンズを、ミリアム・ラスの腕が見つかった天文台に軟禁していた。ラウンズに描かせた記事を見て切り裂き魔は必ず動くだろうと考え奴を待つ。一方、「切り裂き魔の心の闇」と題された新しい記事を眺めるレクター博士だった。

 

<第五の事件>

2年前の「切り裂き魔」の調査でギデオンに面会したことのあるナーン博士(精神科医)が殺され、舌を引きずり出されて見つかった。これはカラザース博士の殺害をラウンズ記者の記事をなぞって行われたように見えるが、一点右腕の切除だけが余計であり、これは「切り裂き魔」自身による犯行であるとウィルは分析する。

ギデオンは現在単独で行動していない(ラウンズがいる)ため、リスクを犯さない切り裂き魔は「右腕」を切り取ることでミリアムの右腕が見つかった場所にギデオンがいることを示唆しているのだと。

 

<チルトン博士への暴行事件>

一方ギデオンはチルトン博士を拉致し、天文台でラウンズと共に開腹手術を行っていた。「俺の脳をかき混ぜた代わりに腹をかき混ぜてやる」とチルトン博士の臓器を次々に取り出すギデオン。追うジャック達。

いよいよ天文台まで(切り裂き魔からのヒントのおかげでだが)及ぶ捜査の手、突入するとそこには腸を掻き出されてなんとか息をするチルトン博士と治療するラウンズがおり、ギデオンは逃亡。

一方外で待っていろと言われたウィルはまたも黒い牡鹿の幻覚を見る。そして逃亡するギデオンは車に乗り込み、後部座席に銃を構えたウィルを見つける。

 

レクター博士とウィル、そしてギデオン>

ウィルは「何が現実か判断できない」ままに銃で脅したギデオンをレクター博士の診療所に連れてくる。彼の目にはギデオンが自ら殺したギャレット・ホッブスに見えていた。博士は「誰もいない、きみはひとりで来た」と告げ、白目を向いて高熱を出すウィルから銃を取り上げる。

意識を失うウィルを横に、「切り裂き魔を語っているのは君か?」とはじめてギデオンと向き合うレクター博士。自己を奪われたギデオンにレクター博士アラーナ・ブルーム博士の居場所を教える。

目を覚まして「ホッブズを一緒にいた」と言うウィルに「熱のせいで幻覚を見た、妄想に侵されるな、(妄想のホッブズが苦しめてくるなら)また殺せばいい」と告げる博士は、アラーナのもとへ向かったふりをしてウィルの前に銃を置いていく

 

<ギデオンとウィル>

ウィルは妄想に取り憑かれたまま銃を手にアラーナの家へ向かうが、そこには外から彼女を眺めるギデオンの姿があった。

「切り裂き魔と思い込んでいたから、もう自分が何者かわからない」取り戻せないとギデオンは語るが、その姿はやはりウィルにはホッブズに見える。「人と関係を築けない人間がいる、私と君がそうだ、妄想から抜け出さないかぎり」と語るギデオン。「抜け出したい」というウィル。

アラーナを殺せばもっと切り裂き魔のことを理解し、彼のように自分自身を保てるのではないかと呟くギデオンを、ウィルは何者なのかもわからないまま撃つのだった。

 

<ジャックとレクター博士

チルトン博士は瀕死の重体、ウィルは40度近い熱を出し白血球も通常の2倍だが感染源がわからない。「彼に銃を持たせるべきではない」と心配する素振りを見せるレクター博士に「それでもギデオンを仕留めた、心配ない」とジャックの意見は食い違う。

「私はウィルがどんな人間が知っている、だが経験で人は変わってしまう」と語るレクター博士。これもまた彼の策略の一端であり(そもそも銃を持たせるなと言っているが今回銃を持って追いかけさせたのは博士である)、彼の舌には相変わらず見えない毒が潜んでいる。

 

レクター博士とベデリア先生>

ウィルが入院する傍ら、自らのセラピーで「彼(ウィル)の危うい心に惹かれている」ことを否定するレクター博士。彼は私に似ている、壊れた心も適量ならば薬になるとも言い張る。ウィルに奇妙な友情を感じている博士に、距離をとるべきだと諭すベデリア先生であった。

 

***

 

第6話以来ギデオンとチルトン博士が再登場する第11話。テーマは「自分が何者か(を見失う)」だろうか。ギデオンとウィルは同じ状態に陥りどちらも苦しむこととなるが、原因はウィルは脳炎、ギデオンはチルトン博士やカウンセラー達からの洗脳である。

それにしても殺人者に拉致されても「あなたの望むように書くわ、何でも言って」と動じないラウンズ、相変わらず肝の据わった赤毛の悪女である。(だいたいあんな恐ろしい手術によく立ち会えるな)

今回大変な目に遭ったチルトン博士だがギデオンは洗脳による被害者でもあり、ウィルもまた博士の歪んだ友情というか愛の被害者(「液体のように不安定」だと己を感じるウィルは内心まだ自分が病気であることを疑っている。かわいそう)なのだが、それにしてもウィルの症状が末期過ぎて心配になる11話であった。もう日常生活全然営めてない。

 

 

【ハンニバル】S1E10:ビュッフェ・フロワ

■あらすじ

現場に出続けることにより精神を病んでいくウィル。そんな彼に博士は「今、ここに集中するため」にとアナログ時計盤の絵を描かせる。ウィルの目にはまともに描けているその絵は、実際には数字が半分に偏ったひどくおかしなものだった。つまりウィルの異常は心ではなく脳にある(と博士は推察するがなにも言わない)。

ウィルの症状は幻覚・幻聴・夢遊病・乖離と激しく進んでいき、釣った魚をさばいているうちに人を殺す幻を観て気づけば現場で取り乱していた。そう、限界が近づいているのだ。

 

《今回の殺人事件:口裂き殺人》

ベッドの下に引きずり込まれて殺され、口を耳まで裂かれた若い女性の遺体が発見される。爪を床に立て犯人を引っ掻いて抵抗したが犯人の血はなく、裂いたところからマスクのように顔の皮膚を剥がそうとした跡があった。

 

ウィルは現場で動揺し、ジャックに様子がおかしいことを指摘される。「何を見た?」と言われても現場を荒らしたことをうまく説明できない。自分が被害者を殺した幻覚を観て実感してしまったのだ。「殺人犯の考えを追え、自分が殺人犯だとは考えるな」とジャックはウィルを本気で心配し始める。

「心を壊しているのか? 俺のせいか?」という問いに「壊れずに僕より有能な奴がいるかい?」と答えるウィルは現場に戻り、犯人は被害者に強い関心を持っていた(つまり顔見知り)と見立てる。

犯人は残酷ではなく孤独で自暴自棄になっており、鏡を見ても見知らぬ他人のように見えているのだと今回の事件を分析するウィル。

 

<博士とウィルのセラピー、そして脳の検査>

想像した残忍な犯行を現実よりもリアルに感じてしまうウィル。やっていないはずなのに殺した感触、死んでいく姿を知っている(気がする)と語るウィルに、妄想に打ち勝てとレクター博士は諭す。ウィルは自分の異常さは体(脳)の異常によるものだと自己分析をし、博士に脳外科を紹介してもらうのだった。「そこで異常がなければ、心の問題だと認めるんだ」と囁かれながら。

 

現場に復帰した頃からの頭痛や幻覚を、レクター博士とともに訪れたサトクリフ医師(研修医時代の博士の友人)に相談するウィルはいよいよMRIにかかる。それを見守るレクター博士は脳炎だろうと”熱を帯びた甘い匂い”から分析するがウィルには告げていなかった。時計の文字盤を書けないのも「半側空間無視」という症状の一種、MRIでも右脳全体が炎症を起こしている(症状は悪化する)ことが判明する。

一方ウィルはMRIの中で口を裂かれて殺された少女や今までの事件の幻覚を見て苦しむが、サトクリフ医師はこれを貴重な研究の好機とみなしてウィルに脳炎のことを伝えない。(そう仕向けたのはレクター博士である)

 

<ジャックとレクター博士

ウィルは犯人に感染して無垢な心を病んでしまった、と遠回しにジャックを責める博士と、それでも彼は戻って戦っていると言うジャック。「ウィルは純粋すぎて、悲鳴を含んだ現場の空気を吸収してしまう」など、彼の脳に異常はなくあくまで心の病であると周囲に思わせる、この辺りの博士の細かい手管はさすがである。

 

<現場に戻るウィルと謎の女性>

自分の異常の原因を知らされないまま、分析のためにウィルは独り犯行現場に戻る。そしてそこでベッドの下に隠れていた、常軌を逸した様子の女性と遭遇し、腕の皮を掴んで剥がしたと思った次の瞬間には数時間後で林の中にいるという混乱状態に陥る。

FBIのメンバー、ビヴァリー・カッツ(科学捜査員)と共に再度現場に戻ったウィルは、目撃した女性は腕の皮膚がずるりと剥がれるほど組織が死んで血が巡っていない(だから殺害現場に血が残っていなかった)のだと分析する。目は変色し栄養失調、黄疸も発生していた。おそらく彼女は人の顔を認識できておらず、人を殺した自覚もない、現実を受け止められていないのだと。

 

<ウィルとレクター博士

ふたたび文字盤を書いても結果は同じ。脳炎という事実をウィルに隠してセラピーを続ける博士。

「僕について論文でも書きますか?」「他の人の治療に役立つことがわかれば、誰だか判らないようにして書くよ」「できれば死後に発表して」「どちらの?」この会話の時ウィルは博士の席に堂々と座っており、2人の関係の親密さが進んでいることを示している。

事件の分析に移る2人は、犯人は顔を認識する脳の領域と感情を司る扁桃体に異常がある「コタール症候群」ではないかと考える。だから人の顔がのっぺらぼうに見えて信頼できる相手さえ見分けられず、マスクのように顔の皮膚を剥がそうとした(その下の顔を見ようとした)のだと

近しい者でさえ誰も信じられなくなっている、「心の病のせいでね」とウィルを見つめて告げる博士であった。

 

<容疑者ジョージア>

現場の皮膚組織から、犯人と思われる女性、ジョージアの身元が判明する。彼女と被害者のベスはもともと親友同士だった。「9歳の時に私を殺そうとした、自分はもう死んでいるとも言った」とジョージアの母親は語る。入院を繰り返し検査でも原因は判らなかったのだ。

 

<苦悩するウィルとジャック>

ミリアムを殺してしまった(と思った)時にFBIを辞めようと思った、今はウィルを壊しかけていることにジャックは気づいているが、不安定なウィルを手放そうとはしない。

「自分にとって良くないとわかっているのに、やめる機会もあったのになぜ続けている?」とジャックはウィルに尋ねる。仕事で精神を安定させているなら、これは君にとって必要なのだと。「砂の上で安定すると思いますか?」「俺は砂ではない、岩盤だ」だから信じろと、ややわかりにくいがジャック流の励ましか。

 

<サトクリフ医師とレクター博士のディナー>

旧知の仲である医師をディナーに招き、イベリコ豚の生ハムをご馳走するレクター博士(本当か?)。貴重でも豚は豚、名前が独り歩きしているだけだと語る博士に「いい肉だと思って食べればその通りになる」とサトクリフ医師。自分が何を言ってるかわかっているのか。

ウィルを豚に例えて「何が珍しいんだ?」と尋ねる医師に、「彼には驚くべきイマジネーションと、美しく純粋な共感力がある。彼に理解できないものはない」と答えるレクター博士。「彼の心に火をつけて、燃やし尽くすのか?」「彼は友人だ、必要になれば火を消す」。症状を把握するために再検査を行おうと意見が一致する。

 

<ウィルの再検査と第二の事件>

時間外診療で再びMRIに入れられるウィル。意識を失ってはたと目覚めた彼は部屋を抜け出し、血のついた扉を見つける。その部屋の中に入って行くと、サトクリフ医師が口を裂かれて殺されていた。

返り血を浴びていないことでウィルは潔白だとみなされ、自分を追ってきたジョージアが顔を認識できず、間違えて医師を殺したのだとウィルは見立てる。彼女と逢った日に「彼女は生きている」と告げたことが、生きている実感を得られないジョージアにウィルを追いかけさせているのかもしれなかった。

 

<ジョージアの発見>

うなされていたウィルは自宅のベッドの下に潜んでいたジョージアを発見する。「君はひとりじゃない、僕も一緒にいる」と呼びかけると、「私は生きてる?」と呟いてジョージアはウィルに手を伸ばし、2人は指先で触れ合うのだった。

無菌室(カプセル)に入れられるジョージア。コタール症候群は電気ショック療法によって治るだろうと見込みをジャックに告げるレクター博士は「ウィルが心配だ」と漏らし、「(友人だった)サトクリフ医師のほうが気がかりでは?」と尋ねられ、「彼のことは哀しいがウィルは生きている」と返す。

 

<真相と第三の死>

誰もが、ウィル自身も含めて納得の行く説明を求めている中で、おそらくすべてを知っているのはレクター博士とジョージアである。

彼女は彷徨う中で、顔のわからない男(レクター博士)が誰か(サトクリフ医師)の口をハサミで裂いて殺しているところを目撃し、男から凶器を手渡されていたのだ。彼女はそのことを、無菌カプセルの中で目覚めて思い返していた。

 

****

 

「アビゲイルが父親を忘れれば君(ウィル)も自由になれる」「奪われた命はその瞬間に肉体ではなくなり、光と空気と色になる」など冒頭から地味にサイコでウィルを操ろうとする博士が怖い第9話。あらゆる所でウィル自身と周囲に、ウィルは心の病に犯されていると印象づけようと暗躍している(が実際は脳炎である)。

いよいよウィルの神経も脳も参っていることが視聴者に明らかになり(態度はでかいが)、今回は容疑者ジョージアとウィル、共に「脳に異常があるがそれがはっきりせず、一見心の病に見えている」人物が事件に関わることとなる。テーマは「心と脳」だろうか。どちらに異常の原因があるのかは、一見してもわからず、また隠されることもある。

 

それにしても博士は匂いを嗅いだ第5話からウィルの脳炎(の匂い)に気づいていたのかと思うと相変わらず恐ろしい。早く言ってやれよと思うがそれでは博士のお楽しみがなくなってしまうので…(こわっ)

そして局ではウィルはジャックに追い詰められ、自分自身をも追い詰めていると噂になっているらしい。そりゃこんな人がしょっちゅう現場でぷるぷるしてたら皆噂するだろうという気もするが気の毒である。一方ミリアムやウィルに責任を感じつつも「自分を疑っても、俺のことは疑うな」とまだ力強く語るジャック。ウィルを現場に結びつけるこの絆はレクター博士にとって厄介だろうか、それとも思う壺だろうか。

 

サトクリフ医師との晩餐での博士も印象的だが、「彼(ウィル)に理解できないものはない」=自分のこともウィルだけは理解できる、ということなのか。医師を殺したのは口封じと、もしかしたらウィルを豚に例えた無礼からかもしれない。相変わらず恐ろしいディナーである。

 

※今回アビゲイル・アラーナ・ラウンズ・ベデリア先生の女性陣は一回休み。出る時と出ない時の差が激しい彼女たちであった。

 

  

【ハンニバル】S1E9:トゥルー・ノルマン

■あらすじ

海辺で異様な殺人事件が発生し、ウィルはジャックらとともに現場へ向かう。

 

《今回の殺人事件:人間トーテムポール事件》

17体の遺体を組み合わせて高く積み上げた異常なオブジェが浜で見つかる。それは何十年と経っている遺体からつい最近殺されたものまで、組み立てて「晒し者」にしたおぞましい猟奇殺人だった。

これは元から計画され、前もって「材料」を用意してピースを組み立て、犯人が独自の秩序をもたらしたもの。最後の被害者は生かしておき、彼に制作過程と作品を見せたかったのだとウィルは分析する。

 

<ウィルとレクター博士

これを「履歴書」「集大成」「後世に残す遺産」とプロファイリングするウィルは無意識の内にハンニバル・レクター博士の診療所まで押しかけるという解離症状を発症してしまう。

人と共感する能力のせいで参っている、やめる機会はあったのにとウィルを心配するレクター博士。「現実から離れていっている」と指摘され、ウィルは夢遊病・幻覚・解離症状に苦しみ脳の検査を必要とするが博士はそれは間違いだと事件に話を引き戻すのだった。

 ※ここでも博士はウィルを深く心配しながら「ジャックに言われるがままに現場に出てしまっている」「意識がない間に誰かを傷つけるかも」と彼を操る布石をいくつも打っている。

 

問題があるなら俺に話せ、とジャックに言われても「すべて順調」としか言えないウィル。

 

<アビゲイルの苦悩>

自分を殺さないために父は女の子を何人も殺して食べていた、私の何がいけなかったのかとアビゲイルは悩み、ニコラス・ボイルを含む被害者達の悪夢を見る。

 被害者の遺族が訴訟を起こしたため、家を含む資産はすべて没収されるはずだとアビゲイルに病院で告げるラウンズ記者。アビゲイルに父のことを本にするべきだ、真実を伝えようと語りかけ、アビゲイルはすべてを話すことを決意する。

 

<事件のプロファイル>

砂浜に埋まっていたものも含め、すべての遺体(17人)を他殺だと断定するウィル。自殺や事故に見せかけているものもあり、犯人にとっっては「死んだという事実」「誰にも気づかれないこと」が重要であり方法は関係がないとウィルは分析し、一番上に飾られていた人物が今になって犯人が光の当たる場に出てきたことの鍵を握っていると見立てる。

一番下の遺体が最初の犯行、なんと40年前から犯人は捕まることなく殺し続けていた。一番上の遺体ジョエルと一番下のフレッチャーには何らかの接点があるはずと。

 

そんな中、キスを交わした夜に帰ってしまったことを謝りにアラーナがやってくる。ウィルが不安定であることを理由に「あなたのことは好きでも、あなたとは付き合えない」と語る。不安定である自覚を抱えているウィルは黙ってアラーナのハグを受け入れるしかなかった。

 

<アビゲイルとウィルとハンニバル、そしてニックの遺体>

本を書くというアビゲイルに反対する2人。「君は大切な存在だ」と語るウィルに「パパを殺したからってパパになる必要はない、許可もいらない」とアビゲイルは反発する。皆に共犯だと思われているのが耐えられないのだと言う彼女に、「一度扉を開ければとてつもない嵐が君を襲う」と博士はたしなめる。

 

その直後、腹を裂かれて死んでいるニコラス・ボイルの遺体が凍った地面の中から発見される。ジャックは遺体をアビゲイルに見せて確認させると言い張るがアラーナは断固反対する。

アビゲイルはニコラスの遺体を確認させられ、ジャックに問いつめられる。病院を抜けだして独りになっていたことを認めるが、彼の死と自分は関係ない(殺されかけただけ)と言い張る。彼女が帰った後、アラーナはハンニバルが信じ続ける限り自分もアビゲイルを信じるのだとジャックに告げるのだった。

 

遺体を掘り返したのはアビゲイルだった。もうニコラスの遺体が見つかることに怯えずに済む、と語る彼女に「信頼を裏切り、私を危険に晒すのはひどい仕打ちだ」と伝えるレクター博士

 

<事件の捜査と結末>

頂上のジョエルの父親は一番下のフレッチャー、だが鑑定の結果実の息子ではなかった。母親も自動車事故で死んでいるがトーテムポールにはされていない。当時の容疑者の元を訪れるジャックとウィル、そこには捜査員を待っている老人の姿があった。

 

「あれを最後にしてよかった、もうこれ以上は戦えない」と17人の殺害を認める老人。ジョエルを殺したのは生きる資格が無いからだ、他にもそれぞれ彼らの知らない理由があったと老人は語る。誰も知らない殺人に成功し、静謐な葬式に出るのはなんとも言えない美しさがあると陶酔したように語る老人は刑務所なら忘れ去られることもない、自分の遺産を後世に残すことが出来たと。 

犯人はフレッチャーの妻と不倫しており、ジョエルは犯人の子供だった。けれど彼はそれを知らず、フレッチャーの子をみごもったとして妻も夫も子も殺した。「本当の遺産を自分の手で殺してしまったな」と吐き捨てるジャックとウィルだった。

 

<ウィルと博士(とアビゲイル)>

ニコラスの遺体を前に、犯人に同化したウィルはこれがアビゲイルの犯行であることを悟る。そしてレクター博士にそれを告げると「知っている。遺体を隠すのを手伝った」と言われるがジャックには話さない。

 

「我々が父親だ、彼女を理解しホッブズの代わりに彼女を守る」と断言するレクター博士。ジャックに話せば彼女の未来はない、弁護士を呼ぶべきかと言う彼にウィルは何も言えず、そんなウィルの肩に手を置いて「黙っておこう、我々は間違っていない」と博士は語るのだった。

 

<恐ろしいディナー>

アビゲイル、ラウンズ(ベジタリアン。幸せなことである)、ウィルはレクター博士とギスギスしたディナーの場を囲む。「アビゲイルから見た真実を伝えたいの」と言うラウンズに博士はあくまで誠実に「アビゲイルを守りたい気持ちを理解して欲しい」と告げる。

 

ウィルも自分がニコラスを殺したことを知っている、と博士に知らされるアビゲイルはまたも思い悩む。「君は自由だ、ウィルはジャックにも自分にも嘘をつくだろう」と博士は寄り添い、「君自身を認められないんだね」と囁くと、アビゲイルはこう言う。

「パパを手伝った。パパの正体も、何をしていたのかも知ってた」と。

アビゲイル自身が、被害者の少女たちをおびき寄せる手伝いをしていたのだ。「私は怪物よ」そんな彼女に博士は「真の怪物を知っている。ウィルと一緒に君を守るよ」と優しく抱きしめて告げるのだった。

 

*****

 

人間トーテムポールという衝撃的な作品が出てくるも、実際の話の筋はアビゲイルが主軸となる第9話。ポイントは「遺体」「親子」だろうか。犯人は遺体で記念碑を作り、アビゲイルは自らの罪の呵責に耐え切れず遺体を掘り返した。そして擬似親子と本物の親子が入り組んだ関係は事件もアビゲイル・ウィル・レクター博士も同じである。

 

「ウィルは私を避けてる、父親の気分になるから」をラウンズは「殺人者の気持ちに同化してしまう」ととったけれど、それだけではないだろう。

ウィルはアビゲイルに近づけば食人鬼になると同時に彼を殺した時の爽快な気分を思い出し、また父親を奪ってしまった代わりに自分が父親になろうという気分にもなるのではないか。この辺りの複雑さがS2まで持ち越されるのがこのドラマの面白いところである。

 

そして今回大きな動きを見せるアビゲイルと博士、ますます擬似親子の様相を呈してくる美しい共犯関係から目が離せないが、毎回何を考えているのか言ってることと後日明らかになる真相が違いすぎて博士は本当に怖い(素敵)。

 

 ※今回も吹替で見ながらまとめたけど、字幕で追えないとついつい全文書き起こしみたいに長くなってしまった。やっぱり字幕にするべきか。でも井上さんの博士ボイス素敵なんですよね…