10月7日 晴れ

主にHANNIBAL。

【ハンニバル】S2E1:Kaiseki(懐石)

■あらすじ

真っ赤な肉をキッチンで切り分けるレクター博士のもとへジャックが姿を見せる。目が合った途端、ジャックは銃を構え、レクター博士はその手に包丁を投げつける。始まる熾烈な格闘。ジャックは博士にガラスの破片で首を切り裂かれて扉の向こうに逃げ込む。一体2人に何があったのか。物語は、12週間前に遡る。

 

<12週間前:博士とジャックのディナー>

相変わらずの優雅な手さばきで料理を拵えるレクター博士。「まずこの皿は向付だ」と美しい懐石料理をジャックに振る舞う。「なんだか食べるのに罪悪感を覚える」と語るジャックに「私にはそんな経験はないな」と囁く。そう、彼に罪悪感はない。たとえ何が起き、何が失われようとも。

 「おばのムラサキにおなじもの(ヒラメ)を振舞った時も、似たような不幸な状況だった」と語る博士。「その時は何があったんです?」「喪失。今も同じだ、ウィルを失い喪に服している」。

 ウィルを失った責任は自分にもある、とお互いに慰めるように言い合う博士とジャック。ウィルはFBIで裁かれ、またウィルから真犯人として名指しされているレクター博士もまたそうなる、とジャックは言う。平然と「私を捜査すればいい。罪が晴れればそれでいい」と答える博士だった。

 

<囚われのウィル>

一方、5件の連続殺人事件の犯人として逮捕されたウィルは州立ボルチモア精神障害犯罪者病院でチルトン医師と会話させられていた。

「僕はあなたと話すつもりはない。レクター博士と話したい」とだけ答え、かつてよく行っていた川釣りと、そこに現れる黒い角の化物の幻想にふけるウィルだった。

 

<内部調査が近づくジャック>

アラーナのウィルに関する報告書(ウィルを捜査に出さないようジャックに進言したにも関わらず、ジャックはそれを聞き入れることがなかった)をめぐり行われる面談。悪いことは言わない、ジャックの名誉のためにも報告書を撤回しろと迫られてもウィルのために撤回はしないと言い張るアラーナだった。

 

<ベデリア先生とレクター博士のセラピー>

「ウィルが私に会いたがっている。私も会いたい。彼の思考回路にはまだ興味がある」と語るレクター博士。「ウィルが会いたいと望むのはあなたを操ろうとする真意の現れ」とベデリア先生。「私が会いたがるとしたら?」「ウィルのことを操ろうとする真意の現れね」。2人はそう、どこまでも鏡の一対なのだ。

 「会いたいんだ」「あなたはウィルのことで頭がいっぱいなのね」「惹かれてる」「執拗なまでにね。ウィルはそこにつけこむでしょうね」「彼は友人だ」「どうしてそう思うの」「ウィルは自分の精神を不気味だと想いつつも有益だと想っている。彼は自分を抑えられない。素直で感心するよ」

「その素直さにあなたは共感しているんでしょうね。あなたは何を抑えられないハンニバル?」

その質問に目を見張り、沈黙と微笑、目をそらすことで回答を避ける博士だった。

 

<ウィルと博士>

「やあ、ウィル」ようやく病院へ現れたレクター博士。「前までは、頭の中で自分の考えが聞こえてた」それが今は、あなたの声のように聞こえるとウィル。「あなたを頭から追い出せない」と。

「友人関係にあることが、個々の境界線を曖昧にしている」と説明付けようとする博士に、「あなたは友人じゃない」ときっぱりと拒絶するウィル。「友情が放つ光は、百万年かかっても僕らには届かない。これは友情とは程遠い」。

殺人の責めを負うべきなのは自分ではなく私だと信じたいんだろう、と博士はウィルに言う。「内なる声に従えば行動を制御できるはずだ。したことの責任を受け入れ、考えを言葉にすれば明らかになる」「明らかですよ、あなたのことは」「私と話すことできみに自分の正体に気づいてほしかった」

 

あなたのしたことは、僕の頭の中にある。それを見つけ出す」と宣言するウィル。「僕は思い出してみせますよ、思い出したら、報いを受けてもらう」そこまで言われても博士の余裕も優位も決して揺らぐことはない。「私はきみに信頼を寄せている、いつだってね」微笑みを浮かべる博士だった。

 

<捜査に協力するレクター博士

カッツから腔内の細胞の採取を受ける博士。スーツも提供し、何も出てこなければ「ウィルががっかりするな」とぬけぬけと言い放つ博士。ウィルは自分の状況を理解しようと戦っている。「彼を守るはずでは?」「彼自身から?」「ええ。でも責めてはいません」ウィルの発していたはずの救難信号やサインに気づかず、こうなるまでに至ってしまったことについて自分自身にも責任を感じているカッツ。

あなたは、新しいウィルよ」その言葉どおり、FBIの事件捜査に協力するため博士は現場に出る。

  

《今回の事件:人間の剥製事件》

滝壺で清掃員により発見されたのは、樹脂でコーティングされた複数の遺体だった。その状態から「魚の剥製を作るときと同じだ。死んでもその形を守れる。人の剥製を作る気だ」と分析するレクター博士。河に捨てられた理由は不完全だったから。「ゴミってわけか」とつぶやくジャック。犯人の正体はいかに。

  

<ベデリア先生とレクター博士、その2>

捜査協力同意書にサインをし、ベデリア先生から患者である自分についての情報提供(ジャックへ)を認める博士。ウィルの訴えを受けてジャックが詳細を調査しているのだと語るレクター博士に「ジャック・クロフォード捜査官と親しいのね」と先生。いわば同士だ、と博士は答える。

「今日、私はウィルになった。ウィルの目を通してFBIの事件を見た」と感慨深く語る博士。

「なぜわざわざFBIの目があるところに出向くの? あなたが身の潔白を主張する代わりに、私は嘘をつくはめになる。またね」どこまでお遊びを続けるつもりなの、と尋ねる先生に「ジャックはきみほど私を疑ってはいない」と答える博士。「あなたの本性を知らないからね」「きみもだろう?」駆け引きは続く。

 

<アラーナとウィル、催眠療法

犬たちの面倒をアラーナに任せ、病院で様子を尋ねるウィル。ウィンストンだけはウィルを探して元の家に帰ってしまうのだと言いつつアラーナは希望を捨てない。「いつかちゃんと会えるわ、裁判に勝てばいい」と。FBIの弁護士を何人もクビにしているウィルに、「無意識下の行動で刑事責任を問えないと主張するの、あなたはどうかしてたのよ」と言い聞かせるように語る。

「僕が何をされたか、もし思い出したら?」「それを言うなら、(正気を失った状態で)何をしたかでしょう」そう、結局アラーナでさえ、ウィルの本当の意味での無実を信じてはいないのだ。苦虫をかみつぶすウィル。

ハンニバルの声が聞こえるんだ、頭の中で。実際の言葉でも想像でもない、別の何かだ」それが何なのか、ウィルにもまだわからない。

失われた記憶を呼び起こすため、2人は深層心理にアクセスするための催眠セラピーを試みる。気づけばウィルは恐ろしい角と漆黒の身体を持つ化物と晩餐会のテーブルを挟んで向き合い、目の前には皿に盛られたアビゲイルの耳があった。「! だめだ、効かない」あまりの恐怖に目を覚ますウィル。「何が見えたの?」答えられないウィルはただ震えるのだった。

 

<チルトン医師とレクター博士のディナー>

博士に肉抜きの料理を要求する、復活したチルトン医師(まだ杖をついている)。ウィルは私とは話してくれない、お手上げだと語る彼に、「どんな精神科医でも、ウィルには手を焼くさ」と答える博士。

ウィルとアラーナは催眠術を試して記憶を取り戻そうとしていた、と言うチルトン医師に「うまくいったのか」と確かめる。勿論そんなはずもなく、「ウィルはきみの話ばかりしているよ、きみは怪物だと言いふらしてる」と笑うチルトンに、「ならきみは殺人鬼と食事中だな」と笑い返し、乾杯する博士だった。実に満足げに。

 

<続く事件捜査>

発見された6人の身元はバラバラで、共通しているのは自宅から車で姿を消していること。また、大量のヘロインが検出され、色素を保つ酸化防止剤を注入され、身体がやせ細らないようシリコンを詰めて表面を樹脂で固めている。狙いはランダムで、見つかった遺体はあくまで捨てられたもの。犯人のもとには一体いくつの遺体があるのか。捜査に向かうジャックをよそに、ウィルのもとへ向かうカッツ。 

ジャックに黙ってウィルを訪ねるカッツ。「単独捜査なの」と今回の事件についてウィルの意見を求める。犯人は狙いを定めて家までつけていって攫い、保存するのだと。標的の選び方が謎なのだと、行方不明者の写真と遺体の写真をウィルに見せる。「何が見える?」。

行方不明者と犠牲者の写真を並べ直すウィル。「これは色見本だ」。恐るべき結論を導き出してみせるのだった。

 

<甦る記憶?>

ビニール防護服をまとったレクター博士に、口の中に透明なチューブを差し込まれ、耳を飲み込ませられた。そんな記憶が浮かんで慄くウィル。それなら、アビゲイルの耳を吐き出した説明がつく。

 

<ジャックとアラーナ、ウィルの自宅で>

ジャックはひとり、ウルフトラップのウィルの自宅を訪れる。現れたのはウィルを探しに来た犬のウィンストンと、そしてアラーナだった。「報告書を出すことにした気持ちは理解できる。俺の判断に疑問を感じて当然だ。記録に残ればウィルの弁護に役立つしな」でもハンニバルは無実だ、と語るジャック。「ウィルもです。でもハンニバルを犯人だと信じて、自分と向き合わずにいる」「自覚はなかったんだろう? そうだと言ってくれ」「彼がサイコパスなら真実を恐れたりしません。ウィルは恐れながら真実を見つけようとしている」。 

ウィルが正気でやったとは信じたくない2人。けれどハンニバルがやったとも、ウィルが真の意味で潔白だとも思ってはいない。ウィルへの愛情と、彼がやったという証拠、現実を受け入れないウィル、進む内部調査、すべてに引き裂かれていく2人だった。

 

<ジャックとウィル>

病院のウィルを訪ねるジャック。「昔のきみを思い出しに来た」。ハンニバルに嵌められたんだと信じていたが記憶も証拠もなかったと語るウィル。今は違う、記憶の欠片が甦ったのだ、ハンニバルは巧みに、皆がウィルを殺人犯だと信じるように仕向けたのだと主張するも、「DNA、指紋、服の繊維まで博士を調べたが何も出てこなかった」と突っぱねるジャック。「もういい加減にしてくれ」「僕はあなたが探している知的なサイコパスじゃありません!」「じゃあなウィル」出ていってしまうジャック。

今は信じてもらえなくても、いずれ信じる」そう呟くウィルの前にはもう誰もいない。

 

<悪夢のような目覚め>

拉致され薬をもられた青年が目を覚ますと、膨大な数の人間の体とともに、みっしりとサイロの中に渦巻状に詰め込まれていた。叫び声を上げても、誰にも届かない。

 

*****

 

凄まじいジャックと博士のパワーファイトで始まり、謎の人体改造事件は途中のまま、クリフハンガーで終わるシーズン2第1話。のっけからパンチの効きまくった展開である。作中屈指の名言「友情が放つ光は百万年かかっても僕らには届かない」「(ウィルに)惹かれてる」が登場するのも見どころだ。

 

今回、奇怪な遺体判明事件はあるものの主題はあくまでもウィルにあり、何が悲しいってすべてがハンニバルの仕業だという「真実」はウィル(とハンニバル)以外にとってはウィルの現実逃避にすぎず、「ウィルを助けたい」と願う周りの人々も、決してかれの潔白(無罪ではなく)を信じてはいないというところ。

アラーナも、ジャックも、立場や考えは違えど「やったのは(正気を失くした)ウィル」という点については疑いようがないと考えており、捜査にも協力的で謙虚なハンニバルがまさか真犯人だとは、この時点ではウィル以外の誰も思っていないのだ。(唯一、ベデリア先生だけはなにかに感づいている?)

 

そして今回、博士はジャックにもチルトン医師にも魚(人肉ではない)を振舞っており、これは彼が一時的に自らの一連の作戦がすべてうまくいったことに満足し、殺しをやめているということだろうか。。

睫毛の震えさえも緻密に計算された博士がDNAや服の繊維などといった痕跡を残しているはずもなく、ウィルにあるのはただ「甦った(一部の)記憶」と信念のみ。まだまだ盤石に見えるハンニバルの天下を、一体どう切り崩していくかが見ものだ。それにしてもチルトン医師、あれだけの目に遭ったのに元気である。