10月7日 晴れ

主にHANNIBAL。

【ハンニバル】S2E2:Sakizuke(先付)

あらすじ

サイロの中で、円形に並べられた人間の身体の集合に加えられて目覚めた青年。なんとか縫い付けられた身体を引き剥がそうともがき、皮膚を破いてサイロから逃げ出す。そこへ戻ってきた犯人と遭遇し、畑の中へと身を隠したが、崖っぷちに追い詰められて河へと身を投げた。全身を強打し、死亡した彼の遺体は河の下へと流されていく…。

 

<ウィルと博士、アラーナ>

「自信が持てないのね。自分の一部を見失ってしまったのよ」面会にきたアラーナとレクター博士に「もう自分のことがわからない」と口走るウィル。「とても怖い」と震えるウィルに、「記憶を取り戻せず妄想にとらわれている」と断じる博士。

「真実を明らかにしましょう」前に進むために、と言い聞かせるアラーナ。「あなたに裏切られた気がする。その感覚だけがリアルなんだ」とウィルは続ける。「僕はあなたを信頼してた。信頼したかった」とレクター博士に言い募り、「信頼していい」と答えられても、自分はまだ混乱しているのだと嘆く。

「ウィル、手伝わせてくれ。力になりたい」と囁く博士に、「お願いだ、助けて欲しい」とウィルは泣き出すのだった。すべては自らの芝居によって、レクター博士を罠にはめるために。

 

<博士の家を訪ねるベデリア先生>

「あなたの担当医を外れる」と言いに来るベデリア先生。「自分の能力に限界を感じたからよ。あなたの力にはなれない」患者と精神科医という関係を終わらせたいのだと。かつて自らの患者に襲われるという悲惨な経験をした彼女にとって、その後も医師として信頼してくれたレクター博士には感謝している。

「だけどウィル・グレアムに起きた一連の出来事を考えたら、あなたの行動に疑問を抱くようになったの」特に、自分が襲われた件にまつわる行動について。

「私の罪とは何かな」「はっきりとはわからないわ。でも結論を出さざるを得なかった。あなたがかぶる人の皮の隙間から見えるものだけを頼りに…」あなたという人は、危険だ。それがベデリアの結論だった。「二度と私の家に来ないで」そう告げて、麗しきベデリアは去ろうとする。そこへ博士は「ウィルのセラピーを再開するんだ。助けを求められた」と打ち明ける。「似た者同士なんでしょうね」彼女は慧眼である。

 

<進む捜査、ウィルの影>

逃げようとして墜死した青年の遺体の司法解剖が行われる。他の遺体と同じく大量のヘロインを摂取しており、自宅で一人でいるときに失踪した。解剖に立ち会ったレクター博士は「彼の何かが気に入らず、縫い合わせたところから引き剥がして捨てたんだ」と推理する。「クラクリュールに手がかりが残っているかもしれない」それはフランス語で、ひび割れのことを指す。ひびの間から繊維などを採取し、遺棄される前の遺体のありかを探ろうと捜査班は考える。

「(遺体の)共通点ではなく、相違点が重要かも。全員肌の色が少しづつ違う、まるで色見本みたい」と、(実はウィルから聞いた)見立てを披露するカッツ。「実に斬新だ。犯人は被害者たちを、人ではなく色としか見ていなかった」と博士も同意する。「素晴らしい洞察だカッツ、まるでウィルがここにいるようだ」と。

 

<カッツとジャック>

「俺に相談もなくウィルに会いに行ったのはどういうわけだ」とカッツを問い詰めるジャック。「私だって行きたくて行ったんじゃない、あなたが行けばよかった」「ウィルは妄想狂かサイコパス、そのどちらだとしても信頼できない」自分がウィルを妄想野郎にしたか、彼がサイコパスだということを自分が見抜けなかったか、どちらかなのだとジャックは考えている。

「ウィルは人の命を救いたがってます」「だが今は内部調査が入り徹底的に調べられてるんだ!」精神鑑定まで迫られているジャックは、カッツに「この話はなかったことにする。なかったわけだから自分の仕事を思うようにやれ」頼んだぞ、と言い聞かせる。そう、結局はウィルの力が必要なのだ。

 

レクター博士の見立て>

博士は遺体の匂いからトウモロコシ畑に思いを馳せる。そこに佇む自分を妄想し、不気味に微笑むのだった。

 

<博士とウィル>

箱の中に閉じ込められたウィルに面会に行くレクター博士。「友情が放つ光は百万年かかっても私達には届かないと言ったね。今日は距離を縮められるといいが」「友情は対等な関係ではじめて成り立つ。精神科医と患者じゃ対等とは言えない」あくまで友情は生まれ得ない、と言い張るウィル。博士は動じない。

「頭の中で私を罪に問う材料を探したが、見つけられなかったようだね」「見つけられないだけだ」「見つけたとしてもそれは事実を曲げて解釈したもので真実じゃないんだ」「それはわかってる」前回までの頑なな態度から、(おそらくは戦略上)少し引いてみせるウィル。

「カッツ捜査官が来ただろう」こんな時に捜査協力なんてアラーナが心配するだろう、と揺さぶる博士に、「唯一正常なことに感じる、暴力を理解するときの思考が」「自分の欠けたものをそんなもので補うな」と言いつつ、博士は身を乗り出して「写真から何が見えた」と尋ねる。

「犯人は被害者同士を紐で縫い合わせてる。人間で絵を描いている」「それはなぜだ」「彼も何かが欠けている」。

 

<カッツとウィル、ふたたび>

捜査協力の見返りをカッツに求めるウィル。責任者のチルトンは面会者と自分の会話を録音して楽しんでいる、ことを知っているウィル。「僕に不利な証拠を無視してほしい」「それは無理」と断られ、ウィルはこう呟く。「犯人はクレヨンの箱に、あと何色増やす気なんだろうね」。動揺するカッツに「捜査を一からやり直すんだ。僕が無実なら新たな証拠が出る」と迫り、彼女から協力の約束を取り付けるウィル。

カッツから受け取った新たな遺体の写真を眺め、目を閉じるウィル。まるで目の前に遺体があるかのように語りだす。「皮膚の色がそれほど変色していない。保存状態はいいのになぜきみを捨てた?」

薬物依存、それもヘロインをやっていたせいで耐性があり、過剰摂取で死なずに生き延びたことを見抜く。「彼は自分の身体を引きちぎり、逃げた」。犯人は絵の中に戻そうとした。他の捨てられた失敗作の遺体とは違い、この彼(ローランド)は自ら逃げ出したのだとウィルは言い当てる。犯人には倉庫のような、見つからず作業できる場所がある。遺体発見場所より上流、河の近くだと。

ハンニバルは、なんと言っていた?」「犯人が他の遺体同様に捨てたんだろうって」「…そう話したんだろうけど、そう考えたとは限らないな」この意味がわかるのは、世界でふたり、博士とウィルだけである。

 

レクター博士の暗躍>

いつものスーツの上にビニールの防護服と手袋を身に着けた博士は、匂いと推理で探し当てた犯人のサイロによじ登る。上から見下ろすその遺体でできた瞳の絵に見惚れるレクター博士。そこへ犯人がやって来る。

「やあ。見事な作品だ」迷うことなく声を掛ける博士。

 

<現場の発覚>

博士とウィルの助言をもとに、カッツは犯人の犯行現場をついに発見する。初めて訪れるような顔でやってきたレクター博士。大量の遺体を縫い合わせて作られた凄惨な現場で「人がここまで残忍になれるとは」と呻くジャックに「生まれと育ち、どちらで決まるのだろうね」と嘯く。

「生贄を捧げる儀式なのか? 誰への?」「犯人は神を見ているのかも。存在意義に悩んでいたとしたらその目には何も映っていないはずだ」繰り返されるか、と尋ねるジャックに「これは始まりか終わり、あるいは両方だ。もう殺しはしない」と断言するレクター博士である。「犯人は人を、目的を達成する手段としか見ていない。自分の目的のために利用するんだ」と。それを聞いたジャックは自らを振り返る。

 

<ジャックの精神鑑定>

「ウィルは目的を達成するための手段でした」人を救うために犠牲にした、とジャックは精神科医に語る。「重荷に耐え、戦えると思ったが間違いだった」と過ちを認めるジャック。ウィルが凶行に及んだと知って、彼への見方、人を見る目が変わった。「世界の闇が深まったんです」ウィルを現場に出し、周囲が止めるのも聞かなかった、と後悔を隠さないジャック。誰だって間違うさ、と言われても「彼は友人であり殺人犯だ。だが2つを結び付けられない」と悔やむのだった。

 

<謎の一体>

発見された遺体の47人中、身元が判明したのは19人だけだった。縫い目がローランドのものと一致する、脚を切られた遺体をめぐり、議論を重ねる捜査班。「肌の色まで変更してます」。その遺体と上から撮られた現場の写真を見比べるジャック。「博士が言っていた…その目は現世ではなく来世を見据え、そこに映る人間を見ている」何も映らないはずだった。「存在意義に悩んでいたはずが、信仰を見つけたのか」…。

一方その頃、すね肉の煮込みを優雅に作るレクター博士。赤ワインとともに、優雅にそのかけらを口に運ぶ。

 

<ジャックとベデリア先生>

これを最後に、ハンニバル・レクターに関して話すのを辞めるとジャックに言いに来るベデリア先生。「不安に思うことがあるんです」だから今の状況から自分を解き放つことにしたと。

ハンニバルにとってのウィルが私にもいたの。頭では向き合うべきだとわかっていても、思い出したくないんです」レクター博士に相談したら、と提案するジャックに「さよなら」とベデリアは決別を告げる。

 

<ウィルとカッツ、そして博士>

ウィルの協力を仰ぎに病院へ面会にやってくるカッツと博士。「この事件のせいで、あなたに頼まれた仕事(ウィルが罪を着せられている連続殺人の捜査)まで手が回らないの」と事件現場の写真を差し出すカッツ。「この目にはどんな光景が焼き付いているんだろう?」そうしてウィルは、犯人と同化する。

「僕がきみたちを加工し、配置した。僕が描いた絵だ。死者の目に映るもの、最後の意識、何も見えない…でも、誰かがこちらを見ている」呟くウィル。「この中のひとつだけがふさわしくない。他と違っている」きみは誰だ?なぜきみは他とそんなに違うんだ。きみは僕の絵にはいない。振り仰ぐと丸い天窓から、鹿の角をつけた黒い化物が見下ろしていた。それを、遺体の絵の一部になってウィルは見上げていた。

「神も殺しを楽しむ。だからしょっちゅうやる。人間は神の子だからね」。その目には、自分を縫い付けるハンニバル・レクターが映っていた。

意識を取り戻したウィルは、「犯人は絵の中にいる。縫い付けられてるこいつだ」と告げる。脚がないのは戦利品として、縫い付けたやつが持ち去ったとウィルは見抜く。

 

<犯人とレクター博士

私と君の共作だ、と犯人を絵の中央に縫い付けるハンニバル。「なぜ俺を助ける?」意識のある犯人は逃げられないまま尋ねる。「君が描いた絵は今神を見てる。そして君を見てる。神が君を見下ろしているなら、見返したいだろう?」

 

<監査官ケイティとウィル>

ウィルのもとへ、FBI監察官のケイティがやってくる。「裁判の争点はあなたがやったかどうかじゃない。自分の犯行を認識していたかどうかよ」。アラーナは無意識の犯行だと主張している、とケイティは語る。「FBIがあなたを殺人鬼にしたという主張よね。でも支持されてない」検察はあなたを知的なサイコパスだとする。サトクリフ医師と共謀して、ありもしない嘘の病気をでっちあげたのだと。「そして僕は、その神経科医を殺したわけだ」「法廷にいる誰もがそう理解するわ」取引しましょう、とケイティは持ちかける。罪を認めれば裁判はしない、ここで不自由なく暮らせるように手配すると。

「ぼくは無実だ」「あなたは正気を失っていた。それは誰の目にも明らかだったの」このままでは有罪で死刑判決を受ける、助けてあげるわと語るケイティに、「自分の身は自分で守るさ」とつっぱねたウィルは、またも川釣りの妄想にふけるのだった。その川には、人間の遺体が魚のように流れていく。

 

<ベデリア先生とウィル>

ウィルを訪ねてきたベデリア先生。「話を聞いていたせいで、あなたを知ってる気がする」「知らない」「ええそうね、でも一度身を引く前にあなたに会っておきたかったの」「何から身を引く?」「社会との絆から」

「あなたもきっと、この試練を乗り越えられる」「試練とは?」近づいてくるベデリア。「あなたを信じるわ」たった一言を残し、彼女は看守に連れられていった。

 

<ベデリア邸での博士>

例のビニールスーツを着て忍び込むレクター博士。家具に布がかけられ、封鎖されているそこはベデリアの診療所。そこに残されていた香水の香りを嗅ぎながら、「あなたという人は危険だわ」という彼女の言葉を思い出す博士だった。

 

*****

 

レクター博士の前で泣いたり、ハンニバルの仕業だというのはあくまで自分の妄想だと認めてみせたり、カッツに捜査のやり直しをとりつけたりと、脳炎が落ち着いたせいか、格段に冷静になっているウィル。彼がもともとは非常に聡明であること(そしてシーズン1後半では脳炎のせいでずいぶんと弱り、博士によって混乱させられて真価を発揮できていなかったということ)がわかる第2話。

 

かつては博士のことを信じ切って言われるがままに操られていたが、ここへ来て「博士の言うことと考えていること、ましてや実際の行動は一致しているとは限らない、いや(殆どの場合)大きく異なっている」という秘密に、ひとりたどり着いているのがさすがである。勿論ウィルほどの洞察力の持ち主であれば、人の嘘には敏感に気づくはずだが、それを今まで(シーズン1の間じゅうずっと)騙し通してこれていたのも博士のサイコパスたる所以でもある。

 

ウィルはハンニバルによって犯人に仕立て上げられ、それを声高に喚くことを諦めたウィルは、しかしその強靭な精神力と頭脳で、これからハンニバルを包囲する戦いを孤独に戦い抜こうとしている。まず引き入れるのが聡明で心優しいカッツ、というところも賢い。そう、ハンニバルの恐ろしさとウィルの誰にも真似できない能力の高さは表裏一体であり、ふたりはシーズン2冒頭にして早くもお互いがお互いを悪魔にし合っているのだ。

 

今回の事件は50人以上の被害者が出ており、陰惨極まりないが、例によって美しい映像によって一種の芸術にまで感じられるのが恐ろしい。ウィルの全裸(?)まであり、博士のビニールスーツ姿も満載と、見どころが尽きないエピソードであった。スネ肉料理して食べるところ、怖すぎませんか??

 

そしてベデリア先生はここで一旦退場、唯一ウィルの告発を信じるが、ハンニバルを恐れたか。ケイティ監察官の真の狙いもまだ謎めいており、続きが気になる。