10月7日 晴れ

主にHANNIBAL。

【ハンニバル】S1E10:ビュッフェ・フロワ

■あらすじ

現場に出続けることにより精神を病んでいくウィル。そんな彼に博士は「今、ここに集中するため」にとアナログ時計盤の絵を描かせる。ウィルの目にはまともに描けているその絵は、実際には数字が半分に偏ったひどくおかしなものだった。つまりウィルの異常は心ではなく脳にある(と博士は推察するがなにも言わない)。

ウィルの症状は幻覚・幻聴・夢遊病・乖離と激しく進んでいき、釣った魚をさばいているうちに人を殺す幻を観て気づけば現場で取り乱していた。そう、限界が近づいているのだ。

 

《今回の殺人事件:口裂き殺人》

ベッドの下に引きずり込まれて殺され、口を耳まで裂かれた若い女性の遺体が発見される。爪を床に立て犯人を引っ掻いて抵抗したが犯人の血はなく、裂いたところからマスクのように顔の皮膚を剥がそうとした跡があった。

 

ウィルは現場で動揺し、ジャックに様子がおかしいことを指摘される。「何を見た?」と言われても現場を荒らしたことをうまく説明できない。自分が被害者を殺した幻覚を観て実感してしまったのだ。「殺人犯の考えを追え、自分が殺人犯だとは考えるな」とジャックはウィルを本気で心配し始める。

「心を壊しているのか? 俺のせいか?」という問いに「壊れずに僕より有能な奴がいるかい?」と答えるウィルは現場に戻り、犯人は被害者に強い関心を持っていた(つまり顔見知り)と見立てる。

犯人は残酷ではなく孤独で自暴自棄になっており、鏡を見ても見知らぬ他人のように見えているのだと今回の事件を分析するウィル。

 

<博士とウィルのセラピー、そして脳の検査>

想像した残忍な犯行を現実よりもリアルに感じてしまうウィル。やっていないはずなのに殺した感触、死んでいく姿を知っている(気がする)と語るウィルに、妄想に打ち勝てとレクター博士は諭す。ウィルは自分の異常さは体(脳)の異常によるものだと自己分析をし、博士に脳外科を紹介してもらうのだった。「そこで異常がなければ、心の問題だと認めるんだ」と囁かれながら。

 

現場に復帰した頃からの頭痛や幻覚を、レクター博士とともに訪れたサトクリフ医師(研修医時代の博士の友人)に相談するウィルはいよいよMRIにかかる。それを見守るレクター博士は脳炎だろうと”熱を帯びた甘い匂い”から分析するがウィルには告げていなかった。時計の文字盤を書けないのも「半側空間無視」という症状の一種、MRIでも右脳全体が炎症を起こしている(症状は悪化する)ことが判明する。

一方ウィルはMRIの中で口を裂かれて殺された少女や今までの事件の幻覚を見て苦しむが、サトクリフ医師はこれを貴重な研究の好機とみなしてウィルに脳炎のことを伝えない。(そう仕向けたのはレクター博士である)

 

<ジャックとレクター博士

ウィルは犯人に感染して無垢な心を病んでしまった、と遠回しにジャックを責める博士と、それでも彼は戻って戦っていると言うジャック。「ウィルは純粋すぎて、悲鳴を含んだ現場の空気を吸収してしまう」など、彼の脳に異常はなくあくまで心の病であると周囲に思わせる、この辺りの博士の細かい手管はさすがである。

 

<現場に戻るウィルと謎の女性>

自分の異常の原因を知らされないまま、分析のためにウィルは独り犯行現場に戻る。そしてそこでベッドの下に隠れていた、常軌を逸した様子の女性と遭遇し、腕の皮を掴んで剥がしたと思った次の瞬間には数時間後で林の中にいるという混乱状態に陥る。

FBIのメンバー、ビヴァリー・カッツ(科学捜査員)と共に再度現場に戻ったウィルは、目撃した女性は腕の皮膚がずるりと剥がれるほど組織が死んで血が巡っていない(だから殺害現場に血が残っていなかった)のだと分析する。目は変色し栄養失調、黄疸も発生していた。おそらく彼女は人の顔を認識できておらず、人を殺した自覚もない、現実を受け止められていないのだと。

 

<ウィルとレクター博士

ふたたび文字盤を書いても結果は同じ。脳炎という事実をウィルに隠してセラピーを続ける博士。

「僕について論文でも書きますか?」「他の人の治療に役立つことがわかれば、誰だか判らないようにして書くよ」「できれば死後に発表して」「どちらの?」この会話の時ウィルは博士の席に堂々と座っており、2人の関係の親密さが進んでいることを示している。

事件の分析に移る2人は、犯人は顔を認識する脳の領域と感情を司る扁桃体に異常がある「コタール症候群」ではないかと考える。だから人の顔がのっぺらぼうに見えて信頼できる相手さえ見分けられず、マスクのように顔の皮膚を剥がそうとした(その下の顔を見ようとした)のだと

近しい者でさえ誰も信じられなくなっている、「心の病のせいでね」とウィルを見つめて告げる博士であった。

 

<容疑者ジョージア>

現場の皮膚組織から、犯人と思われる女性、ジョージアの身元が判明する。彼女と被害者のベスはもともと親友同士だった。「9歳の時に私を殺そうとした、自分はもう死んでいるとも言った」とジョージアの母親は語る。入院を繰り返し検査でも原因は判らなかったのだ。

 

<苦悩するウィルとジャック>

ミリアムを殺してしまった(と思った)時にFBIを辞めようと思った、今はウィルを壊しかけていることにジャックは気づいているが、不安定なウィルを手放そうとはしない。

「自分にとって良くないとわかっているのに、やめる機会もあったのになぜ続けている?」とジャックはウィルに尋ねる。仕事で精神を安定させているなら、これは君にとって必要なのだと。「砂の上で安定すると思いますか?」「俺は砂ではない、岩盤だ」だから信じろと、ややわかりにくいがジャック流の励ましか。

 

<サトクリフ医師とレクター博士のディナー>

旧知の仲である医師をディナーに招き、イベリコ豚の生ハムをご馳走するレクター博士(本当か?)。貴重でも豚は豚、名前が独り歩きしているだけだと語る博士に「いい肉だと思って食べればその通りになる」とサトクリフ医師。自分が何を言ってるかわかっているのか。

ウィルを豚に例えて「何が珍しいんだ?」と尋ねる医師に、「彼には驚くべきイマジネーションと、美しく純粋な共感力がある。彼に理解できないものはない」と答えるレクター博士。「彼の心に火をつけて、燃やし尽くすのか?」「彼は友人だ、必要になれば火を消す」。症状を把握するために再検査を行おうと意見が一致する。

 

<ウィルの再検査と第二の事件>

時間外診療で再びMRIに入れられるウィル。意識を失ってはたと目覚めた彼は部屋を抜け出し、血のついた扉を見つける。その部屋の中に入って行くと、サトクリフ医師が口を裂かれて殺されていた。

返り血を浴びていないことでウィルは潔白だとみなされ、自分を追ってきたジョージアが顔を認識できず、間違えて医師を殺したのだとウィルは見立てる。彼女と逢った日に「彼女は生きている」と告げたことが、生きている実感を得られないジョージアにウィルを追いかけさせているのかもしれなかった。

 

<ジョージアの発見>

うなされていたウィルは自宅のベッドの下に潜んでいたジョージアを発見する。「君はひとりじゃない、僕も一緒にいる」と呼びかけると、「私は生きてる?」と呟いてジョージアはウィルに手を伸ばし、2人は指先で触れ合うのだった。

無菌室(カプセル)に入れられるジョージア。コタール症候群は電気ショック療法によって治るだろうと見込みをジャックに告げるレクター博士は「ウィルが心配だ」と漏らし、「(友人だった)サトクリフ医師のほうが気がかりでは?」と尋ねられ、「彼のことは哀しいがウィルは生きている」と返す。

 

<真相と第三の死>

誰もが、ウィル自身も含めて納得の行く説明を求めている中で、おそらくすべてを知っているのはレクター博士とジョージアである。

彼女は彷徨う中で、顔のわからない男(レクター博士)が誰か(サトクリフ医師)の口をハサミで裂いて殺しているところを目撃し、男から凶器を手渡されていたのだ。彼女はそのことを、無菌カプセルの中で目覚めて思い返していた。

 

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「アビゲイルが父親を忘れれば君(ウィル)も自由になれる」「奪われた命はその瞬間に肉体ではなくなり、光と空気と色になる」など冒頭から地味にサイコでウィルを操ろうとする博士が怖い第9話。あらゆる所でウィル自身と周囲に、ウィルは心の病に犯されていると印象づけようと暗躍している(が実際は脳炎である)。

いよいよウィルの神経も脳も参っていることが視聴者に明らかになり(態度はでかいが)、今回は容疑者ジョージアとウィル、共に「脳に異常があるがそれがはっきりせず、一見心の病に見えている」人物が事件に関わることとなる。テーマは「心と脳」だろうか。どちらに異常の原因があるのかは、一見してもわからず、また隠されることもある。

 

それにしても博士は匂いを嗅いだ第5話からウィルの脳炎(の匂い)に気づいていたのかと思うと相変わらず恐ろしい。早く言ってやれよと思うがそれでは博士のお楽しみがなくなってしまうので…(こわっ)

そして局ではウィルはジャックに追い詰められ、自分自身をも追い詰めていると噂になっているらしい。そりゃこんな人がしょっちゅう現場でぷるぷるしてたら皆噂するだろうという気もするが気の毒である。一方ミリアムやウィルに責任を感じつつも「自分を疑っても、俺のことは疑うな」とまだ力強く語るジャック。ウィルを現場に結びつけるこの絆はレクター博士にとって厄介だろうか、それとも思う壺だろうか。

 

サトクリフ医師との晩餐での博士も印象的だが、「彼(ウィル)に理解できないものはない」=自分のこともウィルだけは理解できる、ということなのか。医師を殺したのは口封じと、もしかしたらウィルを豚に例えた無礼からかもしれない。相変わらず恐ろしいディナーである。

 

※今回アビゲイル・アラーナ・ラウンズ・ベデリア先生の女性陣は一回休み。出る時と出ない時の差が激しい彼女たちであった。